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届かぬ思い、残る不信 逗子ストーカー殺人5年

社会 神奈川新聞  2017年11月06日 02:00

女性の遺影を手に会見する夫=2016年10月、横浜市内
女性の遺影を手に会見する夫=2016年10月、横浜市内

市と和解決裂 来年1月判決


 逗子市の女性=当時(33)=が自宅を突然訪ねてきた元交際相手の男=同(40)=に刺殺されたストーカー殺人事件は、6日で発生から5年がたった。事件後には、女性の個人情報が市から男側に漏れていたことが判明。市の責任を問うため女性の夫(47)が起こした訴訟は来年1月の判決言い渡しが決まった。夫は今も市への不信感を抱き続けたままだが、判決に期待を寄せ、前を見据える。

 訴訟は昨年10月、夫が横浜地裁横須賀支部へ提起した。市に1100万円の損害賠償を求めている。和解協議が途中で決裂し今年10月25日に結審、来年1月15日に判決が言い渡される。

 夫は訴訟で、妻のプライバシー権の侵害を主張。閲覧制限をかけていたにもかかわらず市職員が個人情報を漏らし、精神的損害を受けたと訴えた。

 市側は事件から2年3カ月後、平井竜一市長が夫の元を訪れ直接謝罪した。訴訟でも情報を漏えいさせた過失自体は認めているが、女性の死亡との間に直接の因果関係がないことから、請求された損害額が高すぎるとして争う姿勢を示した。

 和解協議では、市側が対策などをまとめた和解案を2度提示したが、同じような悲劇の再発防止を強く望む夫はいずれも不十分として拒否。和解金額を正式に提示する段階に至らないまま決裂した。

 夫は「金額が判断基準にはならない。市側に改善への努力や誠意が見えてこなかったことが一番大きい」としている。

夫、亡き妻胸に前向き


 「妻が亡くなったことは今でもつらい。だけど、後悔しないくらい充実した5年間を歩んできたという思いがある」。女性=当時(33)=の夫(47)は机に視線を落としながら、言葉を確かめるように静かに語り始めた。

 事件後しばらくは、女性を奪われた喪失感と守ってあげられなかった罪悪感から、落ち込んだりふさぎ込んだりすることもあった。「真っ白な、何もない世界に、ぽつんと立たされたような気持ちだった」

 それでも前を向いて生きていくしかない-。無理にでもそう誓わなければならなかったのは、「残された自分が苦しめば、妻を殺した男の思うつぼになる」との思いがあったからだ。

 事件をきっかけにライフスタイルを変え、私生活や仕事で同じ価値観を持つ人たちとの新たなつながりもできた。「自分の進むべき方向がうっすらと見えてきた。妻がくれた出会い。ちゃんと見守ってくれているんだと思う」。亡き妻を胸に、一歩ずつ前へ進む。

 そして昨年10月。妻の個人情報を漏らした逗子市に慰謝料を求める訴訟を起こした。「ストーカー被害者にとって命に関わる重要なもの。判決を全国の市町村の教訓にしてほしい」。それが提訴した理由だ。

 市から示された和解案の文書はA4判1枚。具体的な対策や時期が明記されていない再発防止策が箇条書きで数項目だけ並んでいた。「遺族への思いや誠意が感じられず、胸に響かなかった」。市への不信感は消えず、先月、修正された2度目の和解案を見て断った。

 事件から5年がたった今なお、付きまといや暴力から逃れ、身を隠している被害者の個人情報が行政や捜査機関を通じて加害者側に漏れる問題は全国で後を絶たない。だからこそ、裁判に懸ける思いはひときわ強い。

 判決は来年1月。望んだ結果が得られるかどうかは分からない。「裁判所から納得できる判決を聞きたい。妻が『もういいんじゃない?』と言ってくれるような結果でなければ、終われない」

逗子ストーカー殺人事件 2012年11月6日、逗子市のアパートで、セミナーコーディネーターの女性=当時(33)=が、元交際相手の男=同(40)=に刺殺され、男もその場で自殺した。男は事件前に大量のメールを送信していたが、当時のストーカー規制法では執拗(しつよう)なメール送信は「つきまとい」に当たらないとして摘発されず、事件をきっかけに法改正された。女性の住所は、探偵業者を通じて発注を受けた調査会社経営の男が、女性の夫を装い電話をかけて逗子市役所から聞き出していた。調査会社経営の男には、15年に偽計業務妨害などの罪で有罪判決が言い渡されている。


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