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時代の正体 差別のないまちへ
条例成立に向けて(4)被害直視が出発点に

時代の正体 神奈川新聞  2019年12月03日 05:00

条例案に盛り込まれた罰則規定の意義を説く師岡弁護士=11月26日、川崎市川崎区
条例案に盛り込まれた罰則規定の意義を説く師岡弁護士=11月26日、川崎市川崎区

 「差別を日本で初めて犯罪として認めるものだ」。ヘイトスピーチに刑事罰を設けた「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例案」の意義を師岡康子弁護士はそう説く。国内外の実情に通じ、川崎市をはじめ全国の自治体からアドバイスを求められてきた第一人者はこうも言った。「被害者にさまざまなことを教わってきた」。対策は被害を見詰めることから出発するのだ、と。

 条例案は素案から一歩進んで具体的な内容になった。連日攻撃的な批判の電話がある中、差別を許さない、被害者を守る、そのために自らが盾になるという姿勢を崩さなかった市に敬意を表したい。

 差別の抑止と権力の乱用防止という、市議会でも議論された両面の疑問に答え、パブリックコメント(意見公募)に寄せられた意見と、神奈川県弁護士会や弁護士有志の要請も取り込まれている。十分練り上げられた案といえる。

 2016年のヘイトスピーチ解消法施行後もヘイトがやまない実態が立法事実だ。1995年に加入した人種差別撤廃条約で日本は差別を禁止する法整備が求められてきたが、24年たってやっと差別を犯罪とする条例が成立する。この条例だけで差別がなくなるわけではないが、刑事罰を設けて差別を犯罪として認めることは差別をなくす出発点として大きな意義がある。

姿勢を評価

 素案から最も前進したのが「人権侵害による被害にかかる支援」についてだ。「必要な支援に努める」から「支援を行う」と義務化された。具体的対応による被害者支援が前面に打ち出されており、市の本気の姿勢がうかがえる。

 救済される被害の例にインターネット上の差別が挙げられているのも重要だ。ネットによるヘイトスピーチはほぼ匿名で行われ、行為者の特定だけで2度の裁判を起こさねばならない。時間的、経済的負担は個人には大きすぎ、多くが泣き寝入りを強いられている。市議会でも発信者情報の開示請求について前向きな答弁が市からなされている。この条項は行為者特定など支援の根拠規定となり得るもので、この点も評価できる。

 罰則については規制の対象や手続きがより具体化、明確化された。罪刑法定主義の観点からの懸念は解決され、憲法上の問題点はなくなったといえよう。違反行為に対する勧告、命令の期間が各6カ月と定められたのも、憲法違反の疑いが生じないようできるだけ手続きの厳格化を図るという慎重な姿勢の表れだ。

切実さ痛感

 ただし、違反をしてはならない地域を定めたことは不要で、6カ月という期間も私自身、実態に即して短すぎると感じたが、被害を受けている当事者からは「それでもこの条例ができれば6カ月間はヘイトが止まる。現状では数カ月だって止められていない」と言われた。

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