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直木賞作家・篠田節子さん
乳がんと介護体験をユーモアあふれるエッセーに

カルチャー 神奈川新聞  2019年11月25日 15:16

「介護のうしろから『がん』が来た!」(集英社、1430円)
「介護のうしろから『がん』が来た!」(集英社、1430円)

 直木賞作家の篠田節子さん(64)が自身の乳がん闘病記をユーモアあふれる筆致でつづったエッセー「介護のうしろから『がん』が来た!」(集英社、1430円)が、このほど発刊された。認知症の母親(95)の介護を、20年以上にわたって続ける中での闘病で「現場からのリポートという気持ちで書いたもの。こういうケースもあるよ、と参考にしてほしい」と話した。

 5年ほど前に甲状腺腫瘍が発見されており、2017年11月に内分泌系の専門病院でがん検査を受けたが、“グレーゾーン”で厳重経過観察となった。

 18年2月に右側乳首からわずかな出血があり、乳腺クリニックを受診。その結果、ステージ1と2の間の浸潤(しんじゅん)がんで、「きちんと治療すれば9割方助かる」との説明を受けた。

 「初期だったし、私の周りには温存手術を受けて普通に暮らしている人もいたので、冷静に受け止められた」という。

 切除手術を勧められ「62歳での再建はあり得ない」と思っていたが、趣味の水泳で水着になることを考慮して乳房再建を選んだ。「後になって、競泳用水着は締め付けられて平らになるので気にならないと分かったけれど」と苦笑する。


「術後2カ月で弾き始めたときは大丈夫かなという感じだった」と趣味のチェロ演奏について話す篠田節子さん。今年6月には70人のチェロによる演奏会に元気に参加した
「術後2カ月で弾き始めたときは大丈夫かなという感じだった」と趣味のチェロ演奏について話す篠田節子さん。今年6月には70人のチェロによる演奏会に元気に参加した

 入院、切除手術、乳房再建と進んでいく中で、作家ならではの取材力を発揮。意外と知られていない乳がん手術の周辺について詳細につづる。友人たちときわどいジョークを交わしたり、医師の了解を得て術後25日で海外旅行に出掛けたり、とエネルギッシュだ。

 「がんも他の病気と同じように治療できるもので、必要以上に怖がることはない。こういう治療法を提示されるから、こういうふうに私は進めたよ、と。他の病気でも、不安にさいなまれている方がいたら検査しようよ、と勧めたい」

 年配の女性の中には、乳房を失うことを女性性の喪失と結び付け、切除を拒む人もいるという。

 「取ったって堂々としていろとは言わないし、押し付ける気もない。でも男性がつくり上げた女性観に乗ることはない。女性としてのアイデンティティーには関係がない」と言い切る。

 乳がん体験記と同様、現場ならではの声をつづったのが介護体験だ。

 退院後間もなく、介護老人保健施設(老健)に入所中の母親との面会を再開。週に2回、面会のついでに洗濯物を受け取り、洗ったり繕ったりして届ける。

 そもそも、がんの検査を受けたのは、自宅近くの実家で介護していた母親が入院を経て老健に入り、自分の体を気遣う余裕ができたからだった。

 術後の生活が元通りになりつつあった今年2月、その老健から退所勧告を受けて、居住する八王子市内の認知症対応型グループホーム12カ所を見学して回った。認知症の症状は人それぞれで、どんな施設は合うのかの見極めが難しい。

 「1、2カ所見ても分からない。良さそうなところが見つかっても、待機者が多くてなかなか入れない。いろいろ考え込むことで疲れてしまう」と振り返る。

 今、母親はグループホームを経て病院の認知症病棟に入院し、落ち着いているという。介護者は自らの健康に無頓着になりがちで、取り返しのつかない場合もある。「在宅介護には限界があるよと知ってほしい」と呼び掛けた。


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