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30日まで、横浜・KAAT
「演劇の本質」ここにあり ギリシャ悲劇「グリークス」

カルチャー 神奈川新聞  2019年11月22日 13:54

舞台「グリークス」の一場面(撮影・井上嘉和)
舞台「グリークス」の一場面(撮影・井上嘉和)

 現代演劇界をけん引する演出家の杉原邦生(37)=茅ケ崎市=が、上演時間約10時間の舞台「グリークス」(編・英訳=ジョン・バートン、ケネス・カバンダー)に挑んでいる。2500年前の古代ギリシャで生まれた10本の悲劇を、一つの戯曲に再構築した大作だ。

 「戦争」「殺人」「神々」から成る三部構成。トロイア戦争を契機に、人と神々を巡る争いや憎悪が描かれる。登場人物は神を崇拝していた一方で、いざ災難や不幸に見舞われるとその存在を疑ってかかるようになる。

 「神は人類が作り出した最大の演劇」。こう語る杉原は、「神」を軸に据える本作から「人間」を浮かび上がらせる。


「舞台を通じて、観客の人生の一部分が少しでも豊かになったら最高」と語る杉原邦生 =横浜市中区
「舞台を通じて、観客の人生の一部分が少しでも豊かになったら最高」と語る杉原邦生 =横浜市中区

 現代では、雷雨や地震のメカニズムは科学の進歩で明らかとなっているが、当時の人類にとっては恐怖の対象だったと杉原。「人はよりどころを求めて神を作り上げ、確固たる存在にしようと神話ができ、そこから演劇が生まれた」との解釈が根底にある。

 恐れおののいていたはずの神を否定する。人間の感情が揺れ惑うさまは、現代にも通ずる普遍性があることを本作は伝える。

 「絶対的な存在がいようと、結局何を信じて生きていくかは個人の価値観に委ねられる」。芝居を通じて観客はおのずと自分の生き方に思いをはせる。この営みこそが演劇で、本作はその本質が詰まっているという。

 1980年に英国で初演されたこの作品を自ら演出するのは長年の目標だった。きっかけは20年近く前に故・蜷川幸雄版をテレビで目にしたこと。「これだけ長くても面白い演劇があるのかと衝撃を受けた」

 「全ての物語の原点」であるギリシャ悲劇に挑むことは「演出家の使命」だと言う。そうして昨年冬、満を持して手掛けたのがKAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で上演した「オイディプスREXXX」だった。


舞台「グリークス」の一場面(撮影・井上嘉和)
舞台「グリークス」の一場面(撮影・井上嘉和)

 ラップやテンポのいいせりふ回し、オイディプス王を一人の青年として描く演出で新たな「オイディプス像」を確立。反響のよさに確かな手応えを得た杉原が次に目を向けたのが、本作グリークスだ。

 「オイディプス-」同様、せりふのリズムや抑揚、現代的な音楽性を意識した自身のスタイルを貫く。音楽の構成、幕ごとに変化する舞台美術、照明の緩急などで長時間でも飽きがこない演出を意識する。

 「演劇は言葉と体と空間」。三本柱の一部である「言葉」も一から練り上げようと、新訳で上演する。翻訳の小澤英実の意向で、女性性を強調する登場人物を除き、「わよ」「だわ」といったいわゆる女性的な語尾を排除したのも本作の特徴だ。杉原は「性差を出さないことで言葉によるカムフラージュがされない分、俳優の演技がより際立つ」とその意図を語る。

 一方、女性がいけにえとなるなど男尊女卑が如実に現れる世界で、「さげすまれる女性の視点をすごく重視した」とも話す。立ち上る女性の強さやたくましさも見どころの一つだ。

 ユーチューブやSNSなどで手早く娯楽と情報を手に入れられる今、10時間に及ぶ舞台は「社会に全く求められていない」と笑う。だが、「だからこそ」と力を込めた。「じっくりと何かを味わうゆとりが失われつつあるからこそ、この戯曲に価値があるし、そこに価値を見いだしてほしい」

 会場はKAAT大スタジオ。30日まで(22、25、28日は休演)。第1部午前11時半、第2部午後3時、第3部同6時半開演。計8回の休憩を挟む。一日通し券1万円。各部チケット一般5千円、24歳以下2500円、65歳以上4500円、高校生以下千円。問い合わせはチケットかながわ☎(0570)015415。


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