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「市の問題」残されたまま 慰安婦映画「主戦場」4日上映

社会 神奈川新聞  2019年11月03日 16:20

 川崎市が懸念を伝えたことを発端に、一度は上映中止が決まったドキュメンタリー映画「主戦場」が4日、川崎市麻生区で開催中の「KAWASAKIしんゆり映画祭」で上映されることになった。映画関係者や市民からの批判と支えが翻意を促した格好だが、きっかけとなった市の問題は残されたままだ。表現の自由に向き合う文化行政の意識の低さを露呈しながら上映当日を迎える。


「主戦場」の上映について告知する映画祭公式フェイスブックの画面
「主戦場」の上映について告知する映画祭公式フェイスブックの画面

 映画祭3日目の10月29日、共催者の市を痛烈に批判したのは、舞台あいさつに立った是枝裕和監督だった。「懸念を真に受けた取り下げは映画祭の死を意味する」と警鐘を鳴らし、「共催者は懸念を表明している場合じゃない。払拭(ふっしょく)する立場だ」と断じた。

 慰安婦問題を主題にした「主戦場」を巡っては、この問題を否定的に捉える一部出演者が上映差し止めを求めて6月に提訴。「訴訟になっている作品を上映するのはどうか」という市の懸念を「重く受け止めた」(映画祭の中山周治代表)主催者が一度決まった上映を取りやめにしていた。

 市は「介入したつもりはない」と説明するが、「行政の言葉を圧力と感じる構造がこの社会にはある。補助金をたてに政権にとって不都合な作品をやめせさるための検閲だ」(ジャーナリストの金平茂紀さん)との批判は根強い。

不在

 10月30日、映画祭の会場で開かれた公開討論会。地元の麻生区役所の職員は居ても立ってもいられずに参加した。「市民が25年間築き上げてきた映画祭が存続の危機なのに、市は人ごとだ」。懸念を伝えたことで映画祭に影響が出ている点について問われた担当者が「答えることはない」と発言したのを報道で知った。「事ここに至っても守ろうという姿勢が見られない」

 中山代表は、あいちトリエンナーレで慰安婦をモデルにした「平和の少女像」に脅迫が相次いだことを理由に「見えない恐怖におびえた」と説明。市との関係悪化も恐れたと語った。

 参加者の市民からは「補助金が切られたら明るみにして社会に問えばいい」との声が上がり、安全面の不安にも「私たちの税金で安全を確保するよう市に相談すべきだ」。警備ボランティアの申し出も相次いだ。

 だが肝心の市職員はその場にいなかった。参加要請を受けていたが「こんなことになり、夜も業務で手いっぱいなので」。上映中止が報じられ、対応に追われているという市市民文化振興室の担当者は神奈川新聞社の取材にそう説明した。

落差

 「表現の自由の問題にとどまらない。平和や人権が脅かされている」と集った市民との落差。少女像だけでなく、元慰安婦のドキュメンタリー映画「沈黙」も街宣右翼や差別主義者による上映妨害に遭う。韓国、北朝鮮を敵対視する政権と追随するメディアの報道も相まって「脅迫や嫌がらせなど起きてもいないものまで理由にして萎縮する社会」は出現をみた。

 公開討論会に参加した主戦場のミキ・デザキ監督は「自分の行動がどんなメッセージを送っているか、その重大性を考えてほしい」と訴えた。呼応する市民が上映当日、主催者が強いられる不安を払拭するべく盾になろうとしている。「会場の指定管理者を通じて麻生署に警備の相談しており、市職員が行く必要はないと判断している」という行政の不在はいよいよ鮮明となり、表現の自由を脅かすあらゆる企ては許されないという明確なメッセージは発せられないままだ。

 上映は午後7時55分からで無料。午前11時から整理券を配布し、同11時30分に抽選を行う。問い合わせは映画祭事務局電話044(953)7652。


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