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記者の視点 デジタル編集委員・石橋 学
時代の正体〈543〉「望む未来」選ぶため

時代の正体 神奈川新聞  2017年10月21日 12:46

「この国を、守り抜く。」の横断幕にハートのプラカードが掲げられた安倍首相の応援演説
「この国を、守り抜く。」の横断幕にハートのプラカードが掲げられた安倍首相の応援演説

【時代の正体取材班=石橋 学】「仕方がない」という物言いが耳にこびりついて離れない。その選択の結果、あなたやあなたが大切に思う人を失い、仕方がないと言えるだろうか。いや、あなたの知らない誰であっても、いつから仕方がないと言ってのける感情を私たちは持つようになってしまったのだろうか。

 解散にあたり安倍晋三首相が「国難」と名指しした北朝鮮の「脅威」が連呼されるというかつてない選挙は、結果次第でかつてない未来を出現させるに違いない。「望まぬ未来」はどのように選択されようとしているのか。私はある自民党候補の支援者集会に向かい、屋外の喫煙コーナーで居合わせた50代半ばの男性に声を掛けた。

 -寒い中、熱心ですね。なぜこの候補の応援を?

 「同級生なんですよ。小中学校の」

 これも現実だ。気を取り直して聞く。

 -安倍政権は安泰な選挙情勢です。

 「この局面では仕方がないかな。独裁的で『ヒトラーの再来』なんて危険視する声もあるようだけど。でも、北朝鮮は隣国。核実験が続き、ミサイルが2回も上空を通過している。断固とした態度と体制を取る必要があるんじゃないか」

 「脅威」はいかにもさらりと自明のものとして語られた。核ミサイル開発は敵対する米国向けのメッセージであるにもかかわらず、日本に差し迫った危機のように受け止められている。

 思い出されるのは、ドイツでは教訓として刻まれるナチス幹部、ゲーリングの言葉。

 〈もちろん一般市民は戦争を望んでいない。しかし、国民をそれに巻き込むのは簡単だ。自分たちが外国から攻撃されていると説明するだけでいい。平和主義者については、彼らは愛国心がなく国家を危険にさらす人々だと公然と非難すればいいだけのことだ〉

 鳴り響く全国瞬時警報システム(Jアラート)や避難訓練は「攻撃」を想起させるに十分な効果があったに違いなかった。

政党より人情



 男性は安倍政権の5年間を必ずしも評価していないという。景気回復の実感はなく、財政再建は後回しにされたまま将来の不安は増し、望んだわけではない特定秘密保護法や安全保障関連法が作られ、そこに「独裁」をみていることを語り、しかし、「北朝鮮の問題がなければ違う選挙情勢になっただろうけれど」と受け入れてしまうのだった。免罪符、あるいは自己弁護のように響く「北朝鮮」の3文字。

 私は尋ねた。

 -北朝鮮情勢の悪化も、拉致問題で強硬姿勢を取り続ける安倍政権の無策の結果とは思えませんか。

 男性はやはり不満を語った。

 「そうですね。小泉(純一郎)さんのように乗り込んで直接対話すればいいのに。そうしないのは米国に気を使っているからでしょう。自国の防衛の問題なのに米国任せ。そこがよく分からない」

 いや、むしろ分かっているようだった。「北朝鮮を完全に破壊するしかない」などと脅し文句を繰り返すトランプ大統領に、安倍首相は国連演説で「必要なのは対話ではなく圧力だ」と呼応してみせた。

 -米国に任せ、圧力を加えるほど暴発の危険は高まりそうです。

 「米国も水面下で交渉し自国には撃たせないという約束を取り付け、落としどころにするはず。日本は二の次。暴発でもされたら被害を受けるのは日本です。先日、ラジオで誰かが言っていたけど、武力では何も解決しないんですよね。本来、仲介役になるべき。隣国なのだから」

 -そう思います。

 「でも政治家にとって武力を振りかざす方が都合がいい。これを機に自衛隊を軍隊に近づけたい野望もあるでしょうから」

 -それはあなたが望むことでしょうか。

 「いいえ。それこそ国民そっちのけでしょう」

 男性は思い出したように「同級生がこんなこと言っちゃっていいのかな」と苦笑した。集会は始まっている。私は問いを急いだ。

 -自民党が大勝すれば安倍首相は圧力路線に信任を得られたと胸を張り、事態は望まぬ方向に進むかもしれません。

 「安倍さんのやり方に反対する気持ちが強いのは支持率が下がっていることからも事実でしょう。かといって民進党は分裂し、誰を首相指名するかも分からない希望の党に任せるわけにもいかない。その意味では立憲民主党は託してみようと思う人が増えるかもしれない。姿勢ははっきりしているから」

 -ご自身は託してみようと思わないのですか。

 「そこは同級生なんで。政党じゃなくて人情。日本の政治のいいところでも悪いところでもあるのでしょうが」

 即答だった。私は落胆した。人ごとのような響きに、これまでと変わらぬ選挙の風景に。男性はこうも言っていた。

 「投票が意思表示だとすれば、理由まで書き込めればいいのだけれど。『ほかに適当な人がいないから』とか」

 仕組みがそうでない以上、別の選択はあり得ないのだろうか。

戦禍の未来図


憲法改正に反対するプラカードも掲げられた安倍首相の街頭演説
憲法改正に反対するプラカードも掲げられた安倍首相の街頭演説

 私はこの候補者に確かめたいことがあった。公示日の10日、第一声で北朝鮮情勢は「年明けにも緊迫する」と語っていたからだ。

 集会後、本人に聞く。

 -年明けに緊迫するというが、根拠は。

 「僕自身が与党で活動するなかで実感を持っているということ」

 -実感、ですか。

 「いつ何があるかなんて分かるわけがない。だけど緊迫はしてくる。石油の輸出制限などの制裁が効いてくれば、普通にみて、年明けには核ミサイル開発をやめる判断を下すか、暴発するかのどちらかしかない」

 「暴発」も「脅威」もやはりためらいなく語られていた。「簡単じゃない。まともな国じゃないんだから」とも言った。

 では「まともな国」じゃないから対話は必要ないのか。武力行使は許されるのか。この候補に限ったことではない。未来予想図は共同通信社が候補予定者に実施した政策アンケートに示されている。自民党候補の約4割が「米国の軍事行動を支持する」と回答している。米国が軍事行動に踏み出せば、集団的自衛権の行使による参戦と戦禍は現実味を帯びる。何より北朝鮮で命が失われる。なのに不支持の回答は約2割にすぎない。

 このためらいのなさに身震いを覚えるとき、戻るべき原点が立ちのぼってくる。

 〈日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する〉

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