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中華街摩登(59)
「街は観光地に変わった」 地元の老舗、長期休業決意

話題 神奈川新聞  2019年10月27日 11:51

福養軒の2代目、譚倫運さん(中央)と妻の楊巧顰さん(左)、3代目の譚学彰さん=横浜市中区山下町
福養軒の2代目、譚倫運さん(中央)と妻の楊巧顰さん(左)、3代目の譚学彰さん=横浜市中区山下町

 横浜中華街(横浜市中区)の老舗料理店が10月いっぱいで長期休業に入る。終戦直後に店を構え、人々の胃袋をつかんできた広東料理「福養軒」。全国から年間2千万人以上が訪れ、飲食業にとって絶好の立地にみえる。だが、2代目の譚倫運(たんりんうん)さん(75)は「街がすっかり観光地に変わってしまった。地元客を相手にするうちのような店は難しい」と休業を決めた訳を明かす。

 福養軒は、倫運さんの父、継寿(けいじゅ)さんが広東省から日本に来て、大正末期に保土ケ谷区に「復陽軒」の名で創業したのが始まり。終戦直後に中華街へと移り、倫運さんは大学を中退し20代前半で店を継いだ。

 そのころの中華街は華僑の商店の集まりで、洋服や理容、雑貨などの店が並び、中華料理店は40~50店舗ほどだったという。「貿易会社など小さな会社がいくつもあり、そうした従業員の方がよく食べにきてくれました」と懐かしむ。

 店の拡張を機に、福養軒に変更。手頃な値段で本格的な中華料理が食べられると評判で、3品のおかずを盛り合わせるランチも人気がある。

 「料理を出して一息ついたらホールに出る。そこでお客さまと話をするのが好きなんですよ」。倫運さんとのおしゃべりや、家族で切り盛りする家庭的な雰囲気を目当てに来店する常連客が多くいた。

 しかし街は変わり、観光客相手の料理店が多数を占めるようになった。いま中華街で人気なのは高級店か、安さを追求した食べ放題店。「二極化が進んでいる」(倫運さん)という。

 25歳で結婚して以来、接客を担当してきた妻の楊巧顰(ようこうひん)さん(75)は「観光客が増えて街全体が潤うのは良いこと。でも昔なじみが減ってさみしい」と複雑な思いを抱く。

 数年前に倫運さんが体調を崩し、最近は揚さんも体調が優れないことがあった。12年前から倫運さんと厨房(ちゅうぼう)に立つ息子の譚学彰(がくしょう)さん(45)と3人で出した答えは、夫婦で引退し、静養することだった。

 店は長期休業に入るが、大学卒業後にサラリーマンを9年間経験した後、「3代目」として料理の腕を磨いてきた学彰さんは、いずれ再開させたいと思っている。ただ、現状を「消費増税や不透明な景気の先行きで、これから個人店の飲食業はどうなるか分からない。態勢を整え、じっくり見極めていきたい」とし、タイミングを計っていくという。

 学彰さんは、6年ほど前から、病気や加齢などでのみ込むのが難しくなった人にも食べやすく加工したいわゆる「配慮食」を提供してきた。口コミなどで評判が広がり、県内外からリピーター客が増えている。中華街で配慮食を提供する店は他になく、休業を知った福祉関係者からも惜しむ声が絶えない。

 再開に向けて場所や店の形態は未定だが、コンセプトは決めている。

 「先代からの味と、お客さまとの距離が近いうちの良さを継承しつつ、配慮食もやっていく。バリアフリー化を含め、誰にでも料理を楽しんでもらえる店にしたい」


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