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記者の視点 デジタル編集委員 石橋学
時代の正体〈530〉 朝鮮学校無償化訴訟判決を問う(下) 正されなかった不正義

時代の正体 神奈川新聞  2017年10月05日 05:39

判決直後の集会で壇上に立つ東京朝鮮中高級学校のオモニ会メンバー=都内
判決直後の集会で壇上に立つ東京朝鮮中高級学校のオモニ会メンバー=都内

【時代の正体取材班=石橋 学】高校を無償化する根拠法が定められた。朝鮮学校も対象だった。ところが朝鮮学校だけ物言いが付き、審査が始まった。途中で政権が民主党から自民党に代わった。途端に朝鮮学校が対象に含まれる根拠となる規定が削除され、朝鮮学校は対象外とされた。

 理由は拉致問題だと文部科学相は言った。教育と無関係の理由で規定を削除することまで無償化法は認めていない。従って規定の削除は違法だと原告は主張した。

 国はしかし、就学支援金の適正な扱いを求める別の規定に照らして不指定にしたのだと主張した。朝鮮学校は適正に運用されていない懸念があり、支援金を渡せば不正に流用する恐れがある、というのが理由だった。

 東京地裁は国が後付けのように出してきたこの主張を認めた。一方で、規定を削除した理由は何であったのか、政治的、外交的理由であったなら違法ではないか、という重要な争点については「判断の必要はない」というひと言で片付けた。判断に踏み込めば、別の答えが出てしまいかねないという、まるで逃げの姿勢である。

 では、学校が適正に運営されていない懸念、不正流用の恐れとはどういうことか。判決は国が提出した証拠をひたすら引き写すのみで、十分な説明をしていない。

 同じ証拠資料をもとに正反対の答えを導いたのが、7月28日の大阪地裁判決であった。規定の削除を政治的、外交的理由によるもので違法と断じ、国が朝鮮学校を巡る「疑惑」として提出してきた証拠を一つずつ検証、判断し、退けていったその判決を読めば、東京地裁判決の粗雑で、そこにこそ浮かび上がる偏見のまなざしがより明瞭に浮かび上がってくる。

■判断


 例えば「北朝鮮が朝鮮学校に対し過去半世紀にわたり合計約460億円の資金を提供をし、平成21年には約2億円の資金提供をした旨の報道」。

 北朝鮮や朝鮮総連による朝鮮学校の「不当な支配」をうかがわせる証拠だと国が提出したものだが、確かに、1957年以来資金提供を行っていたこと、一方で現在も継続しているかは不明なこと、最近の学校の寄付収入は年100万円程度に過ぎないことを示し、判決文はこう続く。「特定の団体が私立学校の教育方針ないし教育内容に賛同して同校に寄付等を行うことは特異なことではなく、在日朝鮮人の民族教育を行う朝鮮高級学校に在日朝鮮人の団体である朝鮮総連等が一定の援助をすること自体が不自然ということはできない」。よって、北朝鮮や朝鮮総連と朝鮮学校の間に適正を欠く関係があるとは認められない、と。

 以下、産経新聞の記事自体を「上記の報道内容に沿う事実があったと認めることはできず、上記の報道の存在をもって本件特段の事情があるということはできない」と「ためにする報道」と位置づけ、学校運営の実態に照らして「その会計処理自体不当なものとはいえないし」「就学支援金が支給されることにより朝鮮総連が利益を受けることをもって不当な利益を得ることになるものではない」と判断していく。

 福岡や広島、神奈川の朝鮮学校に関する事例や報道についても「懸念」「恐れ」に足るものではないとした上で「全国の朝鮮高級学校の運営は、学校法人ごとに個別に行われていると推認されるから、他の朝鮮高級学校の運営状況をもって直ちに大阪朝鮮高級学校の運営状況が推認されるものではない」とそれぞれに記した一文は、印象操作をそのまま引き写した国の印象操作をいさめているようでもある。

 拉致被害者家族会や民団中央本部が文科相に提出した書面で「朝鮮学校は朝鮮労働党の日本での工作活動拠点」「朝鮮学校の運営、教育は朝鮮総連の指導を通じて北朝鮮の完全なコントロール下にある」とされていることについては「拉致問題等を理由に朝鮮学校に対する支給法適用を反対する立場から記載されたもので、記載内容の精度や信用性は慎重に判断すべき」「具体的事実や客観的な裏付けを伴うものではない」として、事実確認もせず証拠として示す国の姿勢をただしてみせたのだった。

■無念


 13日の東京地裁判決当夜、都内で開かれた集会。壇上の慎(シン)吉雄(ギルン)校長が無念をにじませた。

 「心に傷を植え付けておいて、さらに塩を塗られた気持ち。おいしそうな肉を見せつけ、無償化制度開始から7年後のきょう、取り上げる。醜く、残酷なという表現しか思い浮かびません」

 朝鮮学校は植民地支配によって奪われた民族の言葉、文化、歴史を取り戻そうと建学されたのが始まりだ。旧宗主国としての責任を果たさないばかりか、無償化制度によってようやく国庫からの支援がなされるようになった外国人学校のうち、朝鮮学校のみが排除される。自治体による補助金さえも国にならうように打ち切りが続く。

 「日本にいる300万人以上の日本の高校生、外国人学校の生徒に適用しながら2千人に満たない朝鮮学校の生徒には適用しない。これを民族差別と言わずに何と言おうか」

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