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[支え合い]認知症とともに生きる
寸劇で対応を検証 事前の準備が鍵に

社会 神奈川新聞  2019年09月25日 17:38

認知症の人のもの盗られ妄想をテーマにした寸劇
認知症の人のもの盗られ妄想をテーマにした寸劇で、110番通報を受け警察官が駆け付けたシーン=横浜市神奈川区、神奈川公会堂

 認知症の人の介護で課題となるBPSD(認知症の行動・心理症状)の一つに、「物盗られ妄想」がある。置き忘れ、しまい忘れなどを、誰かが盗んだと思い込み、身近な家族や介護者を犯人と決めつけてしまう。訪問介護のヘルパーを犯人と思い込んだ場合は、ヘルパーはもちろん、訪問介護事業所、ケアマネジャーの交代に至るケースもあるという。横浜市の訪問介護連絡協議会と介護支援専門員連絡協議会は11日、同市神奈川区の神奈川公会堂で合同研修を開催。物盗られ妄想への対応の失敗例、成功例を寸劇で検証し、適切な対応を考えた。

 物盗られ妄想では、介護をしている家族が対象になることが多く、家族の困惑も大きい。また、ヘルパーが対象になった場合は、プロフェッショナルのヘルパー、訪問介護事業所、ケアマネジャーでも対応に苦慮することがあるという。

 ケアマネジャー、訪問介護事業所のサービス提供責任者(サ責)、ヘルパーら約130人が参加した合同研修では、実際の事例を基に、物盗られ妄想が強固になり、訪問介護事業所やケアマネジャーの変更を繰り返す人のケースを取り上げた。

 事例は、親族と疎遠な78歳の1人暮らし女性。要介護2で、アルツハイマー型認知症によるBPSDのため、地域の人とのトラブルも生じているという設定。寸劇は、ケアマネジャーが訪問介護事業所にヘルパー派遣を依頼する場面から始まった。

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 失敗事例では、ケアマネジャーは訪問介護事業所のサ責に女性の物盗られ妄想のことを説明せず、サ責も女性の状況を詳しく質問しないまま依頼の話を終了。サ責からヘルパーへの仕事依頼も、「女性宅の掃除」という内容だけだった。

 サ責の指導がないまま、ヘルパーが女性宅の掃除を終えて帰ると、女性は「物がない、盗られた」とパニックになり、110番通報。警察官から問い合わせを受けたケアマネジャーは、電話でサ責を問い詰めた。サ責はヘルパーに確認の電話を入れるが「何か持って帰ったりしていないよね」というサ責の一言に、ヘルパーが「泥棒扱いなんて最低、私ヘルパー辞めます」と憤慨するシーンで終わった。ケアマネジャーとサ責の不適切な対応が厳しく描写された。

 一方、成功例では、ケアマネジャーは断られるリスクを承知で、物盗られ妄想と事業所交代の経緯を訪問介護事業所に説明し、ヘルパー派遣を依頼した。事業所もケアマネジャーの期待に応えようと、困難事例と覚悟し、サ責、ヘルパーによる作戦会議を開催。ヘルパーは女性の見えない所で活動しない、最小限の私物を透明のバッグに入れて訪問する、帰る際にバッグを確認してもらうなど、きめ細かい対策を用意し、ヘルパー派遣となった様子を描写した。

 しかし、それでも、物盗られ妄想は起き、110番通報の事態も。しかし、今回はケアマネジャーが地域包括支援センターに相談済みで、妄想ということで、区役所、地元警察署との連携も行われた。その後、訪問介護事業所が個別支援検討会を開催し、さらに対策を練り直す様子を紹介していった。

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 研修に参加したサ責の一人は「物盗られ妄想は、過去の記憶や思いが、現在の印象と混ざって複雑になり、予測がつかないこともある。長期間続く場合もあり、事業所としてさまざまな対策を試みている」と話す。

 寸劇の解説にあたった横浜市福祉サービス協会南介護事務所の新井仁子所長は「物盗られ妄想の背景には喪失体験や強い不安がある。まずは傾聴。信頼関係を作り少しでも不安を和らげてあげたい。そして、事前の根回しが重要。ケアマネジャーと事業所のほか、家族、役所、地域包括支援センター、警察が事前に対応を取り決めておけば慌てずに済む」と強調した。

◆物盗られ妄想 認知症になると日常的に不安感や被害感が高まり、大切な物を隠す人もいる。また、置き忘れ、しまい忘れなども起き、探しても見つからない時に「盗まれたに違いない」と思い込んでしまう。疑われても、頭ごなしに否定するのは禁物で、困っている本人の気持ち、不安に共感するほか、本人のプライドを尊重し相互的な関係を築くことも重要とされる。


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