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ピエロに思い託す 横浜赤レンガ倉庫で岡部文明展

カルチャー 神奈川新聞  2019年09月25日 06:18

「気軽に楽しんでほしい」と来場を呼び掛ける岡部文明=横浜赤レンガ倉庫
「気軽に楽しんでほしい」と来場を呼び掛ける岡部文明=横浜赤レンガ倉庫

 ラグビーの練習中に大けがを負い、車いす生活となって絵を描くことに目覚め、奮起した画家、岡部文明(ぶんめい)(70)の大規模な個展が、横浜市中区の横浜赤レンガ倉庫1号館で開催中だ。モチーフはサーカスの人気者ピエロ。岡部は「ピエロを通して人々に幸せな気持ちを届けたい」と願う。 

 1973年の初期から最新作まで大小約200点が並ぶ。不自由な手に絵筆をしっかり握り、時には「朝から夜中まで描くこともある」と岡部。200号の大作が多く、1点に半年近くをかけるという。

 65年、福岡県立福岡工業高校ラグビー部2年の時、岐阜国体前日のスクラム練習中に頸椎(けいつい)脱臼骨折の重傷を負い、手足の自由を失った。入院生活中、来日していたニュージーランドの大学ラグビー選抜チームの選手らが見舞いに訪れた。

 「それまで、どうして自分だけがこんな目に、という思いがあった。でも、憧れていた選手に会うことができて、同じラグビーをやっているというだけで、彼らは励ましてくれた」

 「自分が間違っていたのではないか」と思うようになり、退院後にできることを模索。そんなとき、手にしたルノワールの画集で「車いすに乗り、絵筆を手に縛り付けて描いている晩年のルノワールの姿を見て感動した」という。

 美術好きな母の影響もあり、小さい頃から絵を描くことが好きだった。自分の世界を描くことへの憧れを抱き、新聞でコラムを読んだ画家の熊代駿に弟子入りしたのが70年。その2年後、一生描いていけるテーマを見つけた。ロシアのボリショイサーカスで見たピエロだ。


個展のためオブジェ(右)の制作に初めて取り組み、原画と監修を行った。立体制作は彫刻家の岡部憲次=横浜赤レンガ倉庫
個展のためオブジェ(右)の制作に初めて取り組み、原画と監修を行った。立体制作は彫刻家の岡部憲次=横浜赤レンガ倉庫

 「ピエロは身構えず、誰でも歓迎してくれる。自分を卑下しても、それでみんなが楽しく笑うならいい。それを描きたかった」

 楽屋を訪ねてスケッチさせてもらうなど、さまざまなサーカスのピエロたちと交流を重ね、絵にしてきた。チェルノブイリ原発事故やイラク戦争といった社会的な出来事の悲惨さや理不尽さを、ピエロを通して表現した作品もある。

 「自分が何を描きたいのか、ずっと自問自答を続けてきた。5年ほど前、不意に『おまえだってピエロのように人をハッピーにしたいのではないか』との声が聞こえた」

 以来、画風が変わり、同じピエロでも明るく楽しいものを描くようになった。ピエロを中心にした明るい色彩の大きな画面には、さまざまな動物たちが背景としてびっしり描きこまれている。何が隠れているのかと捜すのも楽しい。

 「ピエロは奥が深く、表現するのが難しい。絵描きによって視点が異なる。でも自分はもう、重苦しい絵はやめた。何もできないと思っていたが、四角い画面の中を舞台に、自分がピエロになって何でも表現できるんだと気付いた。そこに心の楽園があったから、自分はピエロに飛びついたんだな、と思う」と穏やかに語った。

※「岡部文明2019展」は11月3日まで。入場無料。午前11時~午後4時半。問い合わせは同展実行委員会事務局☎045(663)9151。


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