1. ホーム
  2. 社会
  3. 「警戒レベル」手探り

猛雨 命守るために(1)
「警戒レベル」手探り

社会 神奈川新聞  2019年09月04日 21:09

 「直ちに命を守るために最善を尽くす必要のある警戒レベル5に相当する状況だ」

 佐賀、福岡、長崎の3県に大雨特別警報が発表された8月28日朝、気象庁は記者会見で切迫した状況であることを繰り返し伝えた。「普段災害が起きないと思われているような場所でも最大級の警戒を」

 「経験したことのないような大雨」の兆しは前日からあった。長崎地方気象台は27日朝、「対馬市では、50年に1度の記録的な大雨になっているところがある」と発表。1時間に120ミリ以上の「猛烈な雨」が降っていた。


大雨・洪水警戒レベルの5段階区分
大雨・洪水警戒レベルの5段階区分

 同じころ、対馬から千キロ近く離れた横浜市内にも激しい雨域が現れていた。金沢区や神奈川区の一部で気象レーダーが捉えていたのは、1時間80ミリ以上に相当する「猛烈な雨」だ。

 ただ、雨域の範囲が限られていた上、同じ場所に停滞し続けることなく徐々に北上。九州北部のような記録的な大雨にはならず、特段の被害も報告されなかった。短時間で局地的な「ゲリラ豪雨」だった。

 横浜市内にはこの時、大雨警報に加えて、洪水警報が発表されていた。昨夏の西日本豪雨を受け、国や自治体の発表する大雨防災情報に今年から新たに導入された5段階の警戒レベルで、「レベル3相当」に位置付けられている。横浜地方気象台は河川の氾濫や低い土地の浸水への警戒を呼び掛けた。

 その後一時的に、洪水の危険度がより高い「レベル4相当」の状況にもなったが、市の担当者は打ち明ける。「あのような降り方の雨で避難を呼び掛けるのは難しい」

「空振り」の懸念なお

 佐賀、福岡、長崎の3県に大雨特別警報が発表された8月28日、神奈川県でも西部を中心に激しい雨となり、小田原市と二宮町に土砂災害警戒情報が発表された。大雨、洪水警報より危険な状況を意味する「警戒レベル4相当」の情報だ。

 県と横浜地方気象台は踏み込んだ表現で危機感を伝えた。「土砂災害警戒区域などでは、命に危険が及ぶ土砂災害がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況」「避難が必要となる危険な状況」

 だが、両市町とも避難勧告を発令しなかった。「激しい雨がさらに降り続く見通しではなかったため」(小田原市)だ。

 二宮町は「警戒情報を個人に知らせる緊急速報メールが県から配信されたため、避難所の開設状況などに関する住民からの電話が相次いだ」としつつ、こう説明する。「空振りを恐れずに発令することが基本とはいえ、すべてのケースで避難勧告などを出すのは難しい」

 国や自治体による警戒レベルの運用は、5月下旬から順次始まった。発表された情報と住民が取るべき行動の対応関係を明確にし、迅速な避難や安全確保につなげることが目的だ。また、複雑で多様な情報を整理し、受け手である住民が直感的に理解できるようにすることも狙っている。

 気象庁はウェブサイトなどを通じて提供している情報を活用した主体的な行動を呼び掛ける。「避難勧告が発令されていなくても、危険度分布や河川の水位情報などを用いて自ら避難の判断を」。同庁関係者は「災害対策基本法で市町村長の役割と定められている住民の避難対応にある意味で国が踏み込んでいる。大きな転換点だ」と、その意義を強調する。

 これにより、市町村が災対法に基づいて避難勧告などを出さなくても、国や県が「自主的な避難」を促す形が進むことになったが、東京経済大の吉井博明名誉教授(災害情報論)は指摘する。「警戒レベルの導入で分かりやすくなった面はあるものの、ハザード(危険要因)情報と避難情報を一緒にするのは無理がある」。大雨のたびに避難の必要性が強調されるようになる一方で、災害が発生しない「空振り」のケースが増えていけば、「人々があまり注意を払わなくなり、『参考情報』になってしまうのではないか」と危惧する。

 2年前の九州北部豪雨で大きな被害を受けた福岡県朝倉市東林田地区で災害復旧復興委員長を務める林隆信さん(70)は「警戒レベルで分かりやすくしようというのはいいが、空振りが続くと、本当に危ない時に誰も逃げないという最悪の事態になりかねない。正しい避難の呼び掛けというのは難しい」と受け止め、実感を込める。「誰も避難はしたがらない。危険な地域に住んでいる人や移動手段がない人をどう避難させるか。日頃の準備が何より大切だ」

特別警報 警報の発表基準をはるかに上回る大雨や大津波などが想定され、重大な災害が起こる恐れが著しく高まった場合に気象庁が発表し、最大級の警戒を呼び掛ける。大雨の場合、集中豪雨や台風で数十年に1度の規模の降水量になるなどと予想された時に発表する。2013年8月に運用が始まり、15年9月の関東・東北豪雨、17年7月の九州北部の豪雨などで出された。昨年7月の西日本豪雨では11府県が対象となった。



 国や自治体の情報が十分生かされず、「平成最悪」となった西日本豪雨から1年余り。命を守るための模索が各地で続く。


シェアする