1. ホーム
  2. 時代の正体
  3. 時代の正体〈522〉やまゆり園入所者に「地域生活を」 支援の動き広がる 

時代の正体〈522〉やまゆり園入所者に「地域生活を」 支援の動き広がる 

時代の正体 神奈川新聞  2017年09月23日 02:00

津久井やまゆり園の入所者について、地域生活移行を見据えて受け入れを検討している入所施設「桜の風」 =川崎市中原区
津久井やまゆり園の入所者について、地域生活移行を見据えて受け入れを検討している入所施設「桜の風」 =川崎市中原区

 【時代の正体取材班=成田 洋樹】大量殺傷事件があった相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者について、家庭の雰囲気に近いグループホーム(GH)で暮らす地域生活への移行を支援しようという動きがじわりと広がっている。横浜、相模原市に続き、川崎市内の事業者が新たに名乗りを上げた。「重度障害者も地域で暮らせると示していくことこそ、障害者の尊厳をないがしろにした事件を乗り越えていくことになる」。その思いは共通している。

川崎でも名乗り


 川崎市の指定管理施設で、社会福祉法人「育桜(いくおう)福祉会」が運営する同市中原区の入所施設「桜の風」(定員50人)は、川崎にゆかりがある入所者の受け入れに向けて検討を始めた。同施設では、重度の知的障害者の地域生活移行に力を入れており、一定期間入所後にGHなどへの移行を目指しているのが特徴だ。川崎での暮らしを望むやまゆり園入所者と家族の選択肢を広げたい考えだ。

 桜の風には現在、自傷他害行為に及ぶことがあり、対応が難しいとされる「強度行動障害者」が定員の半数を超える26人いる。それでも2013年の開設以降、最重度の「支援区分6」で、強度行動障害の4人を含む18人がGH生活に移行した。

 「在宅介助で苦労している家族を中心に入所希望者が多い中、やまゆり園入所者を必ず受け入れることができるかは分からない。でも可能な限り協力したい」。中山満施設長は、苦しい現状を打ち明けながらも、やまゆり園入所者の地域移行を前に進めたい思いを口にする。早ければ年内の新規募集時に希望者を募り、見学や宿泊体験の機会も提供していきたいという。

 同施設を含む市内6カ所の入所施設は8月下旬、川崎市障害計画課に対し、受け入れに協力していく意向を伝えた。同市が、障害福祉サービスの支給決定をしているやまゆり園入所者は6人で、同課は「担当職員が参加する入所者の意向確認の場で、選択肢の一つとして示したい」と話している。
 

受け入れへ準備


 相模原のGHでの受け入れを巡っては、社会福祉法人「県央福祉会」が既に具体的な取り組みを始めている。

 2019年度以降に新設するGHで30人程度の受け入れを計画。来春新たに設けるGHに、やまゆり園入所者の体験入居用に2部屋設ける方向で準備しており、今月8日に開いたGH説明会には入所者家族も参加した。

 県央福祉会の担当者は参加者の前で「県のやまゆり園再建構想案が出たばかりで見切り発車の側面があるが、入所者を受け入れていきたい」と強調した。入所者家族は「熱意を持って取り組んでいる姿が伝わってきた」と話し、GH体験への関心を高めている様子だった。


相模原市内にグループホームを新設する県央福祉会が希望者向けに開いた説明会。やまゆり園入所者家族も参加した =8日、相模原市中央区
相模原市内にグループホームを新設する県央福祉会が希望者向けに開いた説明会。やまゆり園入所者家族も参加した =8日、相模原市中央区

 また、横浜市では、市内の約110施設で組織する横浜知的障害関連施設協議会、約150のGHでつくる市グループホーム連絡会などで準備が進む。同協議会の関係者は「事件当時、山あいの地に150人を超える知的障害者が暮らしていることを知らなかった人は多いと思う。住み慣れた場所を離れて暮らさざるを得なかった当事者が、街中で暮らせるよう支えることこそ福祉事業者や地域社会の役割だ」と訴える。

 現在、やまゆり園入所者130人のうち110人は横浜市港南区の仮移転先で、20人は他の県内施設で4月から約4年間の仮住まい生活を送っている。県の再建構想案では、2021年度に相模原市緑区の現在地と仮移転先周辺に新施設を整備するとしている。現在地で再び入所させたいという家族が少なくないが、仮移転先周辺を希望する人もいるという。地域移行に関心を寄せる人もいる。

 今後は入所者が望む暮らしの場についての意向確認が本格化するが、施設以外の生活を選択肢として考えてもらうためにはGHやアパートでの地域生活体験の受け入れ先の確保が課題となっている。

惨劇乗り越える一歩


 桜の風は、入所したら最期まで過ごす「ついのすみか」ではなく、地域生活に移るまでの一定期間を過ごす「通過型」という理念で施設を運営している。入所施設では社会の多くの人々が享受しているような自由な暮らしを送ることは難しいと考えているからだ。背景には、入所施設の構造的な問題がある。

この記事は有料会員限定です。

月額980円で有料記事読み放題/100円で24時間読み放題のコースも。詳しくはこちら


シェアする