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「生きた証し」教材に 川崎市立中いじめ自殺で教諭が訴え

社会 神奈川新聞  2019年08月19日 05:00

 2010年6月7日、川崎市立中学3年の篠原真矢(まさや)さん=当時(14)=が「友だちのことを護(まも)れなかった」と遺書を残し、自宅で自ら命を絶った。あれから9年。当時、事件を調査した男性教諭が18日、川崎市内で行われたシンポジウムに登壇した。夏休み明けの子どもの自殺が深刻な社会問題となっている中、男性教諭は語る。真矢さんの生きた証しを語り継ぐことで、子どもたちの命を救いたい-。 

語り継ぎ、命救う調査の教諭


シンポジウムで「真矢さんが生きた証を残したい」と語る渡辺さん=川崎市幸区
シンポジウムで「真矢さんが生きた証を残したい」と語る渡辺さん=川崎市幸区

 その日のことははっきり覚えている。穏やかな天気の日だった。夕方、1本の電話が鳴り、生徒が自宅で亡くなったことを告げられた。それが真矢さんとの「出会い」だった。

 川崎市立東菅小学校総括教諭の渡辺信二さんは当時、市教育委員会の職員だった。事件後、真矢さんの事件の調査を担当。約2カ月半にわたって生徒122人から聞き取りを行い、真矢さんが部屋に残したメモや愛読した漫画を読み込んだ。

 浮かび上がってきたのは、唯一無二の、約15年間の人生をまっとうした一人の青年だった。「言葉の引用や、短い言葉の感覚に優れ、正義感を心の奥にたたえながら、平安で笑顔にあふれる世界を願う、感性の純度の高い人だった」

 渡辺さんは、作成した調査報告書を「死亡に関する調査」ではなく「生き方報告書」と呼ぶ。

 「真矢さんは理想、願い、考え方、生き方、いろいろなものを見せてくれた。真矢さんの死生に触れ、僕の命は膨らんだ」


篠原真矢さん=2010年4月撮影(父・宏明さん提供)
篠原真矢さん=2010年4月撮影(父・宏明さん提供)

 あれから9年たったいまも、子どもの自殺が絶えることはない。特に、夏休み明けは、子どもの命が最も多く失われている。

 内閣府によると、1972~2013年の42年間に自殺した子どもの総数は1万8048人。18歳以下の自殺人数を日付別に分析したところ、最も多かったのは9月1日(131人)で、8月20日以降は連日50人を超えていた。

 どうしたら子どもの命を救えるのか。

 現在、小学校の教壇に立つ渡辺さんは毎年、命日に合わせて真矢さんを「教材」に授業を行う。

 「真矢さんが残したものを授業の中で教材として生かしていく。そして、子どもたちに種をまいていく。その中で1人でもいい。子どもたちが、自分の子どもができたときに真矢さんのことを真剣に語り継いでいってくれたらと思う」

 あるとき、渡辺さんの授業を目にした中学の教諭は言ったという。「こんなに生々しい教材は中学校では使わない」

 果たしてそうだろうか。渡辺さんは言う。

 「学級目標で美しいテーマを掲げて、いじめについて子どもたちに『当事者意識を持とう』なんて言っても、無理でしょう。真矢さんの生きた証しを子どもたちに伝えていく。僕は、その地道な取り組みが現状を変えていくことになると思っている」


 ◆川崎市立中学校いじめ自殺 2010年6月7日、市立中学3年の篠原真矢さん=当時(14)=が遺書を残し、自宅で命を絶った。調査報告書は、同級生4人からいじめられた友人をかばう中で自身が標的とされ、そのことで他の生徒へのいじめが止まるため「いじられ役」を演じ続けたことなどに触れたほか、自殺に至る心的な状況について「困っている人を助ける」といった目標と「友人を守れなかった」といった現実との差異などから葛藤が生じ、大きく動揺していたと推察した。


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