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【K-Person】西巻茅子さん 
「絵で語る絵本」作り 3代で親しまれるベストセラーに

K-Person 神奈川新聞  2019年08月18日 11:02

西巻茅子さん


西巻茅子さん
西巻茅子さん

 「こうして客観的に見てみると、われながらちゃんと仕事してきたんだな、と思いますね。やっているときは必死で、その日暮らしなところがあったけれど。よく続けてきたな、と」

 神奈川近代文学館での「西巻茅子展」の会場=写真=で、ずらりと並んだ自身の原画を眺めながら、感慨深げだった。

 1969年に刊行した絵本「わたしのワンピース」。「絵で語る絵本を作りたい」との思いを貫き、当時は珍しかったリトグラフで制作した。画期的な取り組みだと意気込んでいたが、出版社をはじめ、理解してくれる人は少なかった。

 「何となく胸に不満があって、諦めてきたところがあった」。最近になって、ある評論家が「日本にもやっと絵本作家らしい作家が出てきた」と評価していたと知り、「あの頃伝えてくれていたら、力づけられたのに」と思うほどだ。

 最初の手応えは、子どもたちからだった。図書館で、いつも貸し出し中の絵本として話題になったのだ。今では版を重ね、親子2代、3代で親しまれるベストセラーに。

 「50年を超えた評価ですね。物を作る人間としてはめったにないこと。もうそれで恨みは消えました」とほほ笑む。


「西巻茅子展」会場=神奈川近代文学館
「西巻茅子展」会場=神奈川近代文学館

 絵本作家として多忙になる前、子どもを対象にした絵画教室を開いていた。そこで子どもの豊かな感性に驚かされた。

 「例えば花を描く時、子どもは花を見て描くのではなく、自分が知っている花を描く。私も、私の中にある花を描きたい。知っている世界で勝負したい」と子どもの感性を目指して描いてきた。

 「ほのぼのした感じとか、かわいらしい絵と言われることもあるけれど、そう思って描いてはいないんです。ただ、うまい絵は描くまい、と思っている。いい絵がうまい絵ではないし、変にうまい絵になるとつまらないから」

 最新刊の「いえでをした てるてるぼうず」は久々の絵本。100枚近くは描いて捨てたほど、懸命に取り組んだ。

 「50年やってきて、もう生涯の仕事はしたな、という気持ち。主婦業に子育てもしながら、その時その時で、できる限りのことをやってきた。もう十分よ」と充実感に満ち、朗らかに笑った。

にしまき・かやこ
 
絵本作家。1939年、東京生まれ。鎌倉市在住。東京芸大工芸科を卒業後、イラストの仕事を始め、リトグラフに取り組む。66年日本版画協会展で新人賞、67年奨励賞を受賞。同展をきっかけに「ボタンのくに」(67年、こぐま社)でデビュー。代表作に「わたしのワンピース」(69年、こぐま社)、「えのすきなねこさん」(86年、童心社、第18回講談社出版文化賞絵本賞)など。近著はエッセー集「子どものアトリエ」(2017年、こぐま社)、「いえでをした てるてるぼうず」(19年、同社)。

 神奈川近代文学館(横浜市中区)で「『わたしのワンピース』50周年 西巻茅子展」を開催中。9月23日まで。祝日を除く月曜休館。一般500円ほか。問い合わせは同館電話045(622)6666。

記者の一言
 神奈川近代文学館で開催中の「西巻茅子展」でポスターを手掛けたのは、東京芸大での西巻さんの同級生でグラフィックデザイナーの松永真さん。西巻さんの作品の魅力を「何かをやってやろうというんじゃなく、無理がない。気持ちがふっとそのまま出てるような、空気がふわっと出てくるような、そんな感じがいいんですよ」と話してくれた。確かに、さらっと描かれているように思える。実際には試行錯誤を重ね、何枚も描き直しているのだが、そんな気配がない。まさに子どもが思いのまま、楽しみながらクレヨンで描いたようなイメージ。「もう十分描いた」と未練もなく断言する西巻さんだが、そう言わずに爽やかで温かい西巻ワールドの絵本をあと何冊かは手掛けてほしい、と一ファンとして思った。


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