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可能性信じ、はい上がる スポーツクライミング・緒方良行

スポーツ 神奈川新聞  2019年08月12日 21:00

 スポーツクライミングのワールドカップ(W杯)男子ボルダリングで、参戦6年目の緒方良行(21)=神奈川大4年=が待望の初勝利を挙げた。シーズン序盤の不振から立ち直り、2020年東京五輪の出場権が懸かる8月の世界選手権(東京・八王子市)の代表入りにも望みをつないだ。


スポーツクライミング・緒方良行
スポーツクライミング・緒方良行

 表彰台の一番高いところから見た景色は格別だった。6月上旬に米コロラド州で行われたW杯の今季最終戦。緒方は決勝の第1課題で何度も失敗しながら諦めずに完登し、その勢いで4課題全てを攻略した。

 「最後まで自分の力を信じ続けることができた。これまでの過程を思い返すと本当に感動的だった」。全6戦のポイントで争う年間総合でも3位に入り、復活を印象付けた。

 今季序盤はキャリア10年で一番というスランプに陥った。春先のジャパンカップでは、得意種目のボルダリングで上位6人による決勝に進めず8位。スピード(9位)、リード(27位)の両種目も伸び悩み、最大2枠の五輪代表を争うライバルたちに後れを取った。「成績を残すことばかりに目が行って、競技を楽しむという本質を忘れていた」と振り返る。

 緒方の持ち味は人並み外れた親指の力。手のひらを使わずにホールド(突起物)をつまむ「ピンチ」と呼ばれる持ち方を得意とし、大きさや形もさまざまなホールドに幅広く対応できるのが強みだ。

 課題のメンタル面を立て直したことで本来の実力を発揮できるようになり、W杯の勝利につなげた。「親指の強さだったら世界でも負けないと思っているし、W杯も他の選手にはできないコース取りで勝てた。今は純粋にクライミングを楽しめている」。数カ月前の不振がうそのように、言葉には自信がみなぎる。

 「球技や団体スポーツはあまり好きじゃなかった。自分をコントロールする競技の方が向いていたんだと思う」

 福岡県南部久留米市の「田舎育ち」。生き物採集が好きだった緒方にとって、周囲に広がる野山は格好の遊び場だった。木々や岩をよじ登ることで基礎体力は自然と養われた。

 その延長線上にあったのがスポーツクライミングだ。小学5年の時、テレビで競技の存在を知って興味を持ち、自宅から車で10分ほどのジムに通うようになった。「登れなかったコースをやがて登れるようになる瞬間に、すごく達成感があった」とその魅力に引き込まれ、周りの大人に交じって腕を磨いた。

 学業も優秀だった緒方は高校時代、福岡県内でも指折りの進学校へ。当初は地元の難関国立大を目指していたが、国内外のユース大会で実績を残し始めた3年夏に進路を変更。競技環境の整う首都圏に目を向け、山岳部の長い歴史がある神奈川大の推薦入学を決めた。

 「ちょっとリスキーだったけれど、自分の好きなことをやりたかった。スポーツで大学に行く同級生はいなかったし、しかもマイナーなクライミング。周りからは相当アウトローって思われていたはずですよ」

 大学入学後は、課題だった傾斜の緩い壁にも対応できるように体幹や下半身を強化。17年7月のワールドゲームズで男子ボルダリングを制するなど実績を重ね、東京五輪の代表候補の一人に名を連ねた。

 世界選手権の代表入りを懸けた5月の複合ジャパンカップは次点の5位に終わり、出場内定を得ることはできなかった。ただ、日本山岳・スポーツクライミング協会(東京都)は7月下旬のメンバー発表に向けて代表選手の追加を検討しており、その後のW杯で復調した緒方にもチャンスは残されている。

 5月の国内競技会ではスピードの日本記録(当時)も樹立。「日本ではまだ歴史が浅くて、頻繁に記録を更新されちゃう」とおどけるが、リードとボルダリングを合わせた3種目で総合力の高さを示した。

 現在は首都圏のジムを回ってトレーニングを重ねながら吉報を待つ。海外遠征に出れば1カ月近くトレーニングを積めないこともあり、「これを機会にめちゃくちゃ練習しようと思ってます。年齢的にも一番いい時期に五輪を迎えられることに感謝しながら、絶対につかみたいと思っている」。可能性を信じ、はい上がるだけだ。

おがた・よしゆき 神奈川大 小学5年生で本格的にボルダリングをはじめ、福岡・明善高3年の2015年に世界ユース選手権(ユースA)優勝。その後も国内外の大会で実績を重ね、ことし6月にはワールドカップ(W杯)で初優勝した。福岡県久留米市出身で横浜市神奈川区在住。人間科学部人間科学科4年。172センチ、61キロ。21歳。

東京五輪のスポーツクライミング 制限時間内に到達した高さを競う「リード」、壁を登るタイムを競う「スピード」、複数の課題に挑んで完登した数を争う「ボルダリング」の3種目をこなす複合で争われる。出場選手は男女各20人で、日本は開催国枠を含めて最大で男女2枠ずつを確保。8月の世界選手権複合で日本人最上位の選手は五輪代表に内定する。


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 緒方は神奈川大に進学後、ベスト体重を模索して四苦八苦してきた。一時は現在(61キロ)より10キロほど絞り込んだ時期もあったが、身軽になった半面、連戦を乗り切るスタミナがなくなったという。「カロリーを計算するのもストレスになっていた。食いたいものを食って競技する方が自分には合っている」。競技だけでなく、日々の食事も楽しむことで復調につなげた。(圭)



 連載「THE REAL」では、東京五輪・パラリンピックを目指す神奈川ゆかりのアスリートに「リアル」に迫ります(随時掲載)。


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