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殉職もう出すまい 高津崖崩れ30年、川崎消防思い新た

減災 神奈川新聞  2019年08月06日 18:46

 「殉職は、あの日を最後に」。川崎市消防局の馬場稔警防部長(58)は思いを新たにする。1日で発生から30年となった同市高津区蟹ケ谷の土砂災害。最初の崖崩れで一家3人が生き埋めになり、救助活動中の消防隊員3人も2度目の崩落で犠牲になった。出動機会の多い火災とは異なる現場に潜む二次災害のリスク。これからの救命救助を担う世代に教訓を語り継ぐ。


1989年8月1日の崖崩れで住民と消防隊員計6人が死亡し、隊員12人が重軽傷を負った土砂災害の現場=川崎市高津区蟹ケ谷(同市消防局提供)
1989年8月1日の崖崩れで住民と消防隊員計6人が死亡し、隊員12人が重軽傷を負った土砂災害の現場=川崎市高津区蟹ケ谷(同市消防局提供)

 「とにかくものすごい雨だった。道路冠水で動けなくなる車が各地で相次ぎ、出動している時に無線が入った」。1989年8月1日未明、馬場さんは川崎消防署の特別救助隊員として当直勤務中だった。

 「蟹ケ谷で土砂崩れと聞き、大変なことが起こったと思った」。2度目の崩落に救助中の隊員が巻き込まれたと分かり、指示を受けて現場へ向かった。

 増援を求める大規模救急救助特別第3号出場指令。救助工作隊や照明隊など車両57台と隊員314人が参集、消防団員も69人が駆け付けた。

 「土砂に押し流された住宅の中に隊員が埋まってしまっている状態。亡くなった6人がどこにいるかは全く分からなかった」

 どうにか一命を取り留めた12人の隊員の姿は確認できたが、すぐには助けられなかった。「足などを骨折したまま埋まってしまい、土砂の圧迫を受けていたのだろう。『痛い、痛い』という声があちこちから聞こえ、『近づくな』という声も上がった」

 雨が降り続く一方、現場にはガスの臭いが漂っていたとされ、スコップを手に少しずつ土砂を除去する慎重な作業が続けられた。その後、地鳴りが聞こえるなど「三次災害」の恐れも出てきたため、捜索はいったん打ち切りに。翌2日に再開し、一家3人を発見。同日夕に部隊は撤収した。


二次災害の状況を思い出しながら、教訓を語り継がなければと話す川崎市消防局の馬場稔さん=同市消防局
二次災害の状況を思い出しながら、教訓を語り継がなければと話す川崎市消防局の馬場稔さん=同市消防局

 殉職した隊員のうち、現場を指揮した高津消防署警防1課長=当時(50)=は、馬場さんにとって「救助隊の何たるかを教えてくれた人。火災時の人命救助などに実績があり、後輩の教育にも熱心な人だった」。最初の崩落後に駆け付け、目視で現場の安全性を確認した上で二次災害にも注意を払いながら救助に入っていた。その一方で、生き埋めとなった家人の1人が呼び掛けに応じたため、一刻も早く助け出さなければならない状況だったという。

 馬場さん自身も、現場に駆け付けた時の心境をこう振り返る。「目の前で仲間と住民が巻き込まれている。怖いというより、どうにかしなければという思いが強かった」

 相反しがちな隊員の使命感と事故防止を両立させるため、市消防局が被災翌年の90年に策定した安全管理要綱では、「基本原則」として10項目を列挙。「安全を最優先して活動する」「現場規律を厳正に保持する」などとともに「過去の事故事例を教訓にする」を挙げている。

土砂災害 避難鍵に

 土砂災害は住宅を押し流すこともあり、命を奪う危険性が高い。昨年の西日本豪雨や2014年の広島市、13年の伊豆大島などで大きな被害をもたらしている。神奈川では近年、川崎市高津区で6人が死亡した1989年の崖崩れを上回る被害は出ていないが、住宅の立地などに課題がある地域が多く、注意が必要だ。

 県砂防海岸課によると、急傾斜地の崩壊(崖崩れ)や土石流などが発生した場合に住民の命に危険が及ぶ恐れがあり、避難が必要な土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、寒川、開成両町を除いた県内31市町村に計1万472カ所ある。現在はこの中から、より危険性が高く建築規制などが加わる土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)を指定する作業が行われている。

 県は7月、横須賀、厚木市内と真鶴、湯河原町内で調査を終えたレッドゾーンを公表。8月以降に順次、住民説明会を開き、指定に向けた手続きを進める。レッドゾーンは現時点で3309カ所が公表されており、調査は19年度中に完了の見込みだ。

 急傾斜地崩壊の危険性がある区域は、人口が急増した高度成長期以降を中心に崖沿いにまで宅地開発が進んだ横浜、川崎、横須賀市などに多い。一方、土石流の危険区域は小田原市や箱根町などの山間部に目立っている。

 こうしたエリアでは大雨や台風の際、住まいのできるだけ上の階で斜面の反対側にとどまる「垂直避難」が必要だが、崩落の規模が大きいと、それでも巻き込まれてしまう。風雨が強まる前に避難所や影響のない知人宅などに「立ち退き避難」することが望ましいという。

 県と横浜地方気象台が共同発表する土砂災害警戒情報は、5月から運用が始まった大雨防災情報の警戒レベルで、「全員避難」を意味するレベル4相当の情報に位置付けられている。

自助のヒント 土砂災害の種類
 地面に染み込んだ水分などで土の抵抗力が弱まり、斜面が崩れ落ちる急傾斜地の崩壊(崖崩れ)、谷や斜面にたまった土砂が大雨で一気に流れ出る土石流、比較的緩やかな斜面が地下水などの影響でゆっくり動きだす地滑りがある。崖崩れは大雨の際だけでなく、地震によって起こることもある。崖のひび割れや小石の落下、わき水の濁り、地鳴りや臭いなどが前兆とされるが、これらは既に崩壊が始まっている状況を示す現象のため、気付いてから避難しても間に合わないと指摘されている。


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