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神奈川新聞と戦争
(100)1941年 国策と宣伝のはざま

神奈川新聞と戦争 神奈川新聞  2019年08月15日 05:00

「病気のない家庭」に効果があると宣伝した赤玉ポートワインの広告。隣には鉱山従業員の募集広告が=1941年2月20日付神奈川県新聞
「病気のない家庭」に効果があると宣伝した赤玉ポートワインの広告。隣には鉱山従業員の募集広告が=1941年2月20日付神奈川県新聞

 「風邪をひき易(やす)い人に」「眠りの浅い人に」。1940年末の新聞広告に躍った寿屋(後のサントリー)の赤玉ポートワインの惹句(じゃっく)である。戦時体制を背景に、ワインはぜいたくな嗜好(しこう)品から健康飲料へと、その性格を変えた。

 41年に入ってからも半年ほどの間、寿屋は「ワインで健康維持を」といった趣旨の広告を神奈川県新聞(本紙の前身)に出し続けた。1月9日には「栄養を向上する」と題し「全身を快く温めて寒い夜にも安眠を助けます」とうたった。

 「病気のない家庭」を掲げた2月20日の広告も同様だ。「家族に一人でも病人のゐることは、家全体の空気を暗く重くします(略)まづ赤玉ポートワインの盃(グラス)をあげてから、心たのしく和やかな気分で、食卓についてください。食欲もはずみます」。一部に戦時を思わせる「鉄壁の健康陣」の語句もあるが、あくまで幸福な家庭のためにワインを-が主題だった。

 様相が変わったのは「何より健康が先決問題だ!」と題した3月16日の広告。従来と異なり、頑強そうな男性の顔写真を載せた。

 18行にわたる宣伝文で「非常時下の今日、一人でも体が弱くて働けない様なものがあつてはなりません。職域奉公の実践が、吾々(われわれ)日本人としての最も身近な責務であることを知るならば、誰もが体力の向上に努めウンと働いてこの責務を完(まっと)うしなくてはなりません」と訴え、栄養豊富なワインを飲んで「大いに働いて下さい」と結んだ。まさに国策協力の文脈だ。

 男性の写真を用いた広告は同月25日にも。「非常時」などの語句こそないが、文章は「先づ体力を養へ!」と命令調だった。

 一方で4月6日の広告は軽やかな字体で「快い目覚め」と大書し、体裁はイラストと商品名に戻った。文章も「明朗新鮮、自信に満ち充ちた気魄(きはく)が自(おのず)から湧いて来る。これこそは十分に安眠し疲れの除かれた証拠で、例へばストーブに溜(たま)つた燃滓(もえかす)が綺麗(きれい)に掃除されたやうなものです」と、戦時色は後景に遠のいた感がある。

 既に日中戦争は泥沼化し対米関係も悪化していたが、広告だけを見れば、企業の戦争協力と営業活動の矛盾がせめぎ合っていたことが伝わってくる。それも長くは続かないのだが。


男性の写真をあしらい「非常時」「職域奉公」を訴えた3月16日付の広告
男性の写真をあしらい「非常時」「職域奉公」を訴えた3月16日付の広告

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