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神奈川新聞と戦争
(99)1940年 生存懸けた「素肌美」

神奈川新聞と戦争 神奈川新聞  2019年08月12日 05:00

風邪予防をうたった赤玉ポートワインと、華美な化粧を戒めたレオン洗顔クリームの広告 =1940年12月8日付横浜貿易新報
風邪予防をうたった赤玉ポートワインと、華美な化粧を戒めたレオン洗顔クリームの広告 =1940年12月8日付横浜貿易新報

 戦時体制が進むにつれ、ワインは嗜好(しこう)品から実用品へと変わった。少なくとも広告の上では、健康に良いなどの効能を強調することで存在理由を維持した。

 「風邪をひき易(やす)い人に」と大書された寿屋(後のサントリー)の赤玉ポートワインの広告は、1940年12月頃の横浜貿易新報(横貿)、神奈川県新聞(いずれも本紙の前身)にしばしば掲載されたものだ。

 黒いマスクを掛け、感情を失ったような目をした女性らしき絵が空恐ろしい。銀紙に包まれたワインボトルの絵をあしらい、豪華な食卓を連想させた寿屋の広告が載ったのはわずか3年前だが、見る影もない。

 その宣伝文句は次のようなものだった。「風邪を引き易い体質の人は日々赤玉ポートワインを連用して身体に底力をおつけ下さい」「血の巡りをよくし身体のしんからほかほかと温めますが(略)葡萄(ぶどう)糖・果糖などゝ云(い)ふ元気の源泉となる栄養素が豊富にあるので、寒さに負けない強靱(きょうじん)な体力をつくります」

 同年12月8日の横貿は、この「風邪を-」とレオン洗顔クリームの広告を二段重ねで掲載した。「華美」の文字を×印で消し「清楚(せいそ)な素肌美でゆきませう」とうたったレオンの広告も、戦時体制を反映していた。

 「華美は絶対に廃(や)めたいものです。お化粧も新体制に簡素の中の美しさを発揮いたしませう」「従来のお化粧法では無駄です」。新体制とは同年、近衛文麿内閣が打ち出した挙国一致政策を指す。既存の政党や労働組合を解消し大政翼賛会に一本化。並行して国民生活も「ぜいたくは敵だ」の文句を掲げ制限した。

 この広告では「素肌美」「簡素美」の語句が強調されている。前に本欄で紹介した、戦時下の家庭用品を評価する「機能美」の語句に通ずる。簡素であることに「美」を見いだし、物資の欠乏を取り繕う。シンプルな家具や道具と、素肌を生かした化粧は相通ずる。

 加えて、ワインや化粧品のような、戦時下に不要不急とされかねない商品をいかに必要と思わせるか。生き残りを懸けたメーカーの切実さもうかがえる。


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