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連載“猛雨”(3)鍵握る「予防的避難」 油断の心理が妨げ

社会 神奈川新聞  2017年09月03日 10:43

激しい雨の降った8月7日、増水した酒匂川では釣り人が流され、消防に救助された=南足柄市内
激しい雨の降った8月7日、増水した酒匂川では釣り人が流され、消防に救助された=南足柄市内

 太平洋上で迷走を続けた台風5号が上陸した8月7日は、豪雨への対応を試される日となった。

 山北町には午後3時52分に大雨警報が発表され、午後5時半には洪水警報、同43分に土砂災害警戒情報が加わった。暗くなるに従い、河川の氾濫や土砂崩れの恐れが高まっていった。

 降水状況をリアルタイムに映す気象庁のウェブサイト上では、降り方が非常に激しいことを示す赤や紫の範囲が神奈川、山梨県境に停滞。7月の九州北部の豪雨や2015年の関東・東北豪雨などで発生した長さ数十キロ以上の強雨域「線状降水帯」と似たような状況が出現していた。

 山北町内の6カ所で翌8日朝までに観測された雨量は79~306ミリ。1時間92ミリを観測した地点もあったが、町から避難勧告などは発令されなかった。

 「避難勧告の発表基準の雨量に達した地点は何カ所かあった。だが山間部が中心で、危険なところには人が住んでいなかった。気象庁の情報もチェックしながら総合的に大丈夫と判断した」。見送った理由を説明する町総務防災課の瀬戸靖課長は一方で、悩ましさも口にする。「避難を呼び掛けるかどうかの判断は難しい。空振りを恐れずに発令するのは構わないが、厳密な基準だけで運用するのもどうか」

 そうした中で率先して動いた地域もあった。

 自主的な避難者向けに集会所を開放した丹沢湖上流の畑地区。地元自治会の湯川勘一会長(66)は、人々が陥りがちな心理を指摘する。「水害の経験がないと、『これぐらいの雨なら』と油断し、逃げ遅れてしまう」

 自らは1972年の「丹沢集中豪雨」で、避難者を1カ月ほど受け入れた旅館で対応に当たったことがある。「避難所を開くことにしたのは、そのときのイメージがあったから。山が崩れる前には葉っぱが腐ったような臭いがするものだ」

 隣の南足柄市には、山北町と同じように中山間地に集落が点在する。台風5号で大雨警報は出たが、より危険な状況を意味する土砂災害警戒情報の発表には至らなかった。それでも市は避難所を開設し、避難を呼び掛けた。身を寄せたのは6世帯12人。

 地蔵堂地区自治会の佐藤美己会長(66)は、やや拍子抜けした。「九州で豪雨が起きたばかり。もっと多くの人が避難すると思ったのだが」。避難の呼び掛けに対し、「これぐらいの雨なら大丈夫」「面倒」という住民からの反応が少なくなかった。

 「山はいつ崩れるか分からない。何かあってからでは遅いんだ」。県西部に被害が集中した48年のアイオン台風では「地元でも田んぼや鉄橋が流される被害が出た」と聞いたが、佐藤さん自身も含め、そうした災害を直接経験していない住民が多くなった。「どうすれば、意識を高められるだろうか」と思い悩む。

 避難行動に詳しい東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害心理学)は「豪雨災害は地震などと比べて予測がしやすく、その精度も高まっている。九州の豪雨では、地元自治体がもっと早い段階で避難を呼び掛けるべきだった」と指摘。「過去のケースを見る限り、住民が危険な場所にとどまらなかった方が被害は少ない。予防的避難。これに尽きる」


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