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【カナロコオピニオン】デジタル編集部兼報道部・成田洋樹
時代の正体〈510〉現実変えるのは私たち やまゆり園再建問題

時代の正体 神奈川新聞  2017年08月23日 11:06

津久井やまゆり園の再建を巡り、黒岩祐治知事(右)に報告書を手渡す堀江まゆみ・県障害者施策審議会長=17日、県庁
津久井やまゆり園の再建を巡り、黒岩祐治知事(右)に報告書を手渡す堀江まゆみ・県障害者施策審議会長=17日、県庁

津久井やまゆり園の再建を巡り、黒岩祐治知事(右)に報告書を手渡す堀江まゆみ・県障害者施策審議会長=17日、県庁
津久井やまゆり園の再建を巡り、黒岩祐治知事(右)に報告書を手渡す堀江まゆみ・県障害者施策審議会長=17日、県庁

【時代の正体取材班=成田 洋樹】大量殺傷事件のあった相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」の再建を巡り、黒岩祐治知事が当初の大規模施設再建案を撤回した。県障害者施策審議会から施設の小規模・分散化を求める提言を受けて方針を転換した。1月の県公聴会で障害者団体や専門家から「大規模施設の再建は時代錯誤」といった異論が続出し、県が再考を迫られてから半年余り。黒岩知事は、施設より自由度が高いグループホーム(GH)など地域生活への移行に積極的に取り組むことを求める提言に沿って検討を進める考えを示している。

 同審議会は県に対し、相模原市緑区の現在地と、横浜市港南区にある仮移転先周辺の県有地に小規模施設を整備するよう提言。県立障害者施設5カ所も加え、家族が施設生活を望む場合も視野に入れてやまゆり園入所者131人分の定員を確保することを求めた。

 現在地での入所生活を再び望む家族も少なくないとされ、定員規模を巡って紆余(うよ)曲折をたどる可能性がなお残る。

 県が同審議会の提言に基づいて近くまとめる再建構想案を当事者にとって実りあるものにするためには、行政や福祉事業者、地域で暮らす私たちには何が求められているのか。あの凄惨(せいさん)な事件を乗り越え、障害当事者主体の生活をどう切り開いていくのか。その成否は、施設以外の具体的な住まいの選択肢をどれだけ用意できるか、差別や排除の意識が漂う地域社会を変えていけるかに懸かっている。

 公聴会で異論が続出した後、構想案の練り直しに向けて県から提言を求められた同審議会は2月以降、専門部会の会合を12回重ねて報告書をまとめた。

 中でも、入所者が望む暮らしの場に関する意向確認の手順と組織を確立させた意味は大きい。県がやまゆり園職員と家族会の意向を受けて大規模施設再建案をまとめた1月時点では簡易的な聞き取り調査にとどまり、詳細な調査を継続するかどうかは不透明だった。しかし今後本格化する意向確認を担う組織は、やまゆり園や県職員だけでなく外部の福祉専門家らも入ることで、多様な視点から入所者の気持ちを丁寧に探っていく方針だ。

 暮らしの場を選ぶには、施設以外の生活体験が欠かせない。経験してみなくては最適な場所は選びようがない。報告書では、他の施設やGH、アパートなどでの生活を体験できる機会を可能な限り提供するよう県に注文する一方、地域生活移行や施設入所を強いることがないよう留意することも求めた。

二項対立を越えて


 実際にそれぞれの願いをかなえていくには、その「受け皿」が必要だ。

 福祉事業者の間でも重度障害者がGHで暮らすのは難しいとする意見が少なくない中、横浜市と相模原市のGHで受け入れる動きがじわりと広がっている。

 その一つで、横浜市内の知的障害者施設で構成する「横浜知的障害関連施設協議会」の関係者は、重度障害者がGHで暮らすことは理想論にすぎないと業界内外で語られることに対し、じくじたる思いがある。「理想」として片付けられてしまっては、重度障害のある子と暮らす家族は「将来、施設の選択肢しかないのか」と落胆するだろう。だからこの関係者は「『施設か地域か』『理想か現実か』といった二項対立の議論から離れて、やまゆり園入所者のような重度障害者であっても街中で暮らすことができるという『現実』を今まで以上につくり出す実践を進めることこそ問われている」と強調する。そして今後の施設は「ついのすみか」ではなく、地域生活への移行を目指す「通過型施設」としての役割が一層求められていると訴える。

 また、別の施設関係者は県の新たな施設に対し「福祉施設は社会の共有財産。いまの入所者だけでなく、今後、必要とする人のことも考えて整備しなくてはならない」と、将来の利用者のニーズも踏まえるよう要望している。

共生社会の試金石


 これまでの実践を踏まえ使命感から、GHでの受け入れに名乗りを上げた団体や社会福祉法人に対して、同業者からは冷ややかな見方も出ている。

 「GHで重度の障害者を本当に受け入れることができるのか」「家族が大規模施設の再建を求めていたのに、なぜ水を差すようなことをするのか」…。

 もちろん各事業者の力量が試されることになるのは確かだが、同業者や住民、行政は「自助努力」などと言って孤立させてはならない。GHでの受け入れの動きが広がらなければ、地域移行の希望に応えることが難しくなる。同審議会が提言したようにGHへの補助を拡充していくことが県には求められている。

 一方で、時に反対運動が起きることもあるGH建設を地域が温かく迎え入れることも重要だ。やまゆり園入所者の地域生活への移行がどれほど進むかが、事件を経験した私たちが共生社会への歩みを確かにできるかどうかの一つの試金石となる。

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