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価値観多様に 「絵本が描く家族」を専門家らに聞く

カルチャー 神奈川新聞  2019年06月19日 17:51

東條知美さん
「絵本に何が描かれ、描かれなかったのかを知ることは、大人が子どもたちに『何を手渡したかったのか』を知る手掛かりとなる」と話す東條知美さん

 「父親が少ない」。自宅や書店にある絵本に目を通し、ふと思った。子育てがテーマの作品に登場するのはほとんどが「ママ」で、働く母の姿も珍しい。共働き設定の作品はないのだろうか。そんな一つの疑問を出発点に専門家や作家、出版社を訪ね、「絵本が描く家族」について聞いた。 

 「平成に入り、いろいろな家族像が描かれるようになりました」。そう語るのは、絵本コーディネーターの肩書で活動する東條知美さん(46)。10年ほど前から原画展や作家の対談企画、読み聞かせなどを重ねてきた。

 「父はスーツを着て仕事、母はエプロン姿で家事」。このような男女像が主流だった昭和に比べ、平成は多様な家族を描いた作品が緩やかながらも増えてきているという。

 特に欧米の作品ではひとり親、子育てする同性カップル、養子として家族に迎えられる子など多彩な家族が登場する。「『普通』などなく、幸せであればそれでいいという、誰も取り残さない視点で『家族』を描く絵本が翻訳出版されるようになっています」

 日本の作品はどうか。共働き世帯数が専業主婦世帯数を逆転して27年、東條さんが薦める一冊に「ぼくのママはうんてんし」(2012年、福音館書店)がある。登場するのはJRの運転士の母と看護師の父、2人の子ども。エプロンを着けた父が食器を拭く様子も自然に描く。夫婦が等しく子どもと向き合い、対等に家事や仕事をこなすさまが映し出されている。

 「いつかこういうのを描きたいと思っていました」と、作者の大友康夫さん(73)。脳裏によぎるのは、当時2歳の三男を背負って絵本の打ち合わせに行った約40年前の出来事だ。

 居合わせた編集者たちに言われたのは「女房に逃げられたのか」「美談の中の人みたい」。大友さんは「児童書の関係者ですら、育児をする男性は揶揄(やゆ)の対象だったんです」。

 同作では、母親が夜勤で帰って来ない晩も、父と子が笑顔で過ごす。特に働く女性にとって励みとなる一冊だが、共働きをテーマにした作品を出版するには一種の壁もあるという。「話が複雑だと、子どもが分かるドラマにならない。いかに子どもを楽しませる作品にするかが課題です」

 子豚が主人公の仕掛け絵本「プータン」シリーズで知られるJULA出版局(東京都文京区)には数年前、「プータンいまなんじ?」(ならさかともこ絵、わだよしおみ文、1984年)に対し「母だけが家事をすることを奨励するのか」と、母の描かれ方を批判する1通のはがきが届いた。絵本をめくると、確かに妻だけが料理や洗濯をしているが「家族の役割を意識した本ではない」と代表の大村祐子さん(76)は言う。「絵本は子どもが主体で親や家族は脇役。子どもの本は(家族の設定を)ダイレクトに表現するものではない」との考えを持つ。

 同作は今でも年間5千冊以上を販売するロングセラー作品。一方、新たなプータンシリーズでは母が働く設定にする予定だという。同社編集部の北尾知子さん(46)は「文学同様、絵本も時代を反映していく。共働き世帯の増加という社会変化に少しでも近いものになれば」と模索する。

 「絵本は子どもが初めて触れる外の世界、登場人物は初めて出会う他者」と語る東條さん。子どもたちがより広い視野と想像力を育めるようになるため、男女の役割が固定された家族像ばかりではない、多様な価値観が描かれる作品が一層増えることを期待している。


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