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時代の正体 引きこもり考
殺傷事件と偏見 孤立呼ぶ報道やめて

時代の正体 神奈川新聞  2019年06月13日 09:43

 「引きこもり傾向」とされる51歳の容疑者が川崎市で20人を殺傷し、その後、東京都内で元農林水産事務次官が引きこもりの長男(44)を刺したとして逮捕された。これを契機に「8050問題」と呼ばれる中高年の引きこもりが注目される一方、川崎事件では、発生直後から引きこもりと事件が結び付けられる報道が目立ち、当事者や保護者はいまだ混乱のただ中にいる。引きこもりに対する「犯罪予備軍」という差別的な見方が根強い現状を目の当たりにした当事者団体「ひきこもりUX会議」の林恭子代表理事に聞いた。


ひきこもりUX会議 林 恭子代表理事 はやし・きょうこ 高校2年で不登校、20代半ばで引きこもりを経験。信頼できる精神科医や「ひきこもりについて考える会」での多様な人々との出会いを経て回復。仕事を持ち、結婚し、現在は幅広く引きこもりの支援活動をしている。
ひきこもりUX会議 林 恭子代表理事
 はやし・きょうこ 高校2年で不登校、20代半ばで引きこもりを経験。信頼できる精神科医や「ひきこもりについて考える会」での多様な人々との出会いを経て回復。仕事を持ち、結婚し、現在は幅広く引きこもりの支援活動をしている。

 -二つの事件をどうとらえたか。

 「川崎の事件が起きてすぐに川崎市が記者会見をし、精神保健福祉センターが(容疑者と同居する親族による)相談内容を詳しく会見した。本人が引きこもりがちだったとしても、守秘義務があるはずなのになぜ会見したか疑問だった。しかも行政がお墨付きを与えた。すると約3時間後、夜のニュースのトップで容疑者が『引きこもり傾向あり』と報じられ、以後はそうした報道一色になった。かつてのように引きこもりと犯罪がイコールで結ばれると思い、メンバーで話して声明を出した。本人が余計に自分のことを責めたり、ますます人からどう思われるのか不安になったりする恐れがある上、親御さんも『もしかしたらうちの子が』と動揺してはいけないと思ったからだ。しかし5月31日に声明を出した翌日、元農水事務次官の事件が起きてしまった」

 -声明で何を訴えたか。

 「とにかく、『引きこもりイコール犯罪者』という印象で報道しないでほしいということだ。そのことで当事者がさらに傷つき一層外に出られなくなり、親もより隠そうとしてしまう。もう一つは、問題は『孤立』ということだ。だれでも孤立すれば追い詰められる可能性があり、人ごとではない。報道がだれかを追い詰める方向に行くのではなく、もっと寛容で理解のある社会をつくるために協力してほしいという思いだった」

 -事件後、当事者や保護者はどういう状態か。

 「この間、UX会議や親の会の全国組織では、朝から晩まで電話が鳴り止まない状態だ。他の支援団体でも同じだと聞く。当事者からは『親に殺されるかもしれない』という声が寄せられた。ニュースを見て怖くて外出できなくなったという声も。当事者からと思われる無言の電話や、本文がないメールなども来ている。当事者や周辺には非常に動揺が走り、親もしんどい状態に置かれている。いまだ、全然収まっていない」

 -犯罪報道では、紋切り型に容疑者像をつかもうとする傾向がある。

 「引きこもりや精神科の通院歴は、すぐに容疑者と結び付けられがちだ。だがたとえば、椎間板ヘルニアの治療歴や大腸ポリープの入院歴などではそうはならない。私は引きこもりや精神科の通院歴もそれらと同じだと思っているが、なぜか異なる捉えられ方をしている。そもそも差別なのだな、とやはり思う。二つの事件でも問題は、家族ごと孤立し、どこにもつながっていなかったことだ。孤立で人が追い詰められることは普通にあり得ることで、そこはフラットに見てほしい。引きこもりだから起こしたという見方は何とか変えたい」

 -引きこもりと犯罪を結び付ける傾向はいつごろから始まったか。

 「約20年前に発覚した新潟少女監禁事件(2000年)や佐賀県のバスジャック事件(同)を契機に、『引きこもり』という言葉と、『犯罪予備軍』という非常にネガティブな印象が広がった。それが続いている。当事者や親御さんは、そうしたイメージがあるため、なかなか相談できないという状況がある」

 -偏見の背景には何が。

 「引きこもりは当然ながら本人が出てこないため、どういう人で、何を考えているのかという実態がなかなか見えなかったと思う。ようやくここ数年、当事者が自分たちで雑誌を作ったり、人前で話したりし始めた。だが、一般の人にはまだ届いていない。実際に顔を見れば『普通なんだ、変わらないんだ』となる。そうなるには当事者側も、もしかしたら発信することが必要かなという気がする」

 -引きこもりというと、あるイメージでひとくくりに捉えられている。

 「実際は引きこもりも百人百様で、世代も10代から60代までとさまざまだ。ただ、言葉の持つイメージで『えたいが知れない、暗くて人とのコミュニケーションがとれない、ゲームばかりをしている』といった印象があまりに根付いてしまった。そこを変えねばと思っている。たとえば、『おたく』という言葉はかつて非常に差別的だったが、今は全くそうではない」

 「この20年、偏見をやめてほしいと言っても何も変わっていない。ただ、実は引きこもりは犯罪率が低いというデータがある。そういう数字をなるべく伝えることも必要だろう。そして『うちの子、引きこもっているのよ』と気軽に言えるよう印象を変えられれば」

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