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【K-Person】束芋さん
女性の情念に着目 過去と現在が融合

K-Person 神奈川新聞  2019年06月09日 11:51

束芋さん


束芋さん
束芋さん

 「膨大なコレクションの量に驚いた。こんなに面白いものを隠し持っていたのか、とも」。今年開館30周年を迎える横浜美術館(横浜市西区)で開催中の「Meet the Collection-アートと人と、美術館」展に、ゲストアーティストの一人として参加した。

 自作と同館のコレクションを関連付けて展示する企画で、特に“女性の情念”に焦点を当てた映像インスタレーション「あいたいせいじょせい」=写真=が、鏑木清方の「遊女」や小倉遊亀の「良夜」といった日本画と並ぶ。


束芋「あいたいせいじょせい」横浜美術館にて
束芋「あいたいせいじょせい」横浜美術館にて

 映像の舞台は吉田修一さんの小説「悪人」に登場する金子美保が暮らす部屋。

 「ヘルス嬢という特殊な職業に就いているが、私ととても似たところがあり、私の考える同世代的感覚を持ち合わせているように感じた」と親近感を抱く。

 その部屋に、近松門左衛門の「曾根崎心中」の主人公、お初と徳兵衛が、それぞれソファとテーブルとして置かれる。

 「私から見たら、徳兵衛は最低な男なのに、なぜお初は心中したのか、とずっと疑問に思っていた。だが、遊女として生きていたお初が、この世と決別することで自由になるための心中だったとしたら、理解できると思った」

 同館での個展からちょうど10年。「ある人にとっては当然のことが、別の人にはそうではない。自分なりにその答えを出すために、作品を作っている。実は、2009年の個展は、父とのけんかが大きなきっかけ。分かり合える点を探りながらけんかを繰り返して、やり方は違うけれど、その先にある目指すものは同じではないかと気付いた」

 当時、団塊の世代である父に対し、自分たちを「断面の世代」と命名し、個展のタイトルにした。この10年、こうした基本的な考え方は変わらないが「以前は『私たちは』と考えていたところが、『私は』と私個人がどういう見方や主張をするのか、に変わってきた」という。

 今、他者とのコラボレーションにより自分の中から引き出される社会に関心を抱く。「私の中にはないものが出発点となり、刺激となって、想定していなかった何かを引き出してくれる」。どう飛躍して己の作品になるのか、挑戦が続く。

たばいも 現代美術家。1975年兵庫県生まれ、長野県在住。本名、田端綾子。アーティスト名は、友人が3姉妹を呼び分けた「たばいも(田端の妹)」による。99年、京都造形芸術大の卒業制作でアニメーションを用いた映像インスタレーション「にっぽんの台所」を発表し、キリン・コンテンポラリー・アワード最優秀作品賞受賞。以来、国内外で活躍している。2001年横浜トリエンナーレに最年少の25歳で参加。09年横浜美術館で個展「束芋:断面の世代」開催。11年ベネチアビエンナーレ日本館代表。19年4月から横浜美術館で開催中の「Meet the Collection-アートと人と、美術館」展に参加。同展は23日まで。

記者の一言
 「過去の作品と現代作家の作品が同じ空間で融合し、空間自体が作品になっている。あまり考えずに、体感するつもりで見に来てほしい」と束芋さん。安田靫彦の「松風」に描かれた女性の髪の毛を「目の前にどーんと豊かな髪の毛が現れて、触れるような質感」と評する。束芋作品にも髪の毛は度々登場するモチーフだ。「生きている間は生命や美の象徴だが、抜け落ちてしまうと気持ちの悪い物になる。一つの生命は、良いもの、悪いものに分けられない。そういう二面性のあるものに関心がある」と、創作の原点になっている。おどろおどろしさと同時に、何となくさっぱりした感じも抱かせるのが、作品の魅力の一つ。取材時に着けていたブローチはきのこかと思いきや「脳みそです」とほほ笑んだ。


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