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「日韓の架け橋に」 駅で救助中犠牲となった留学生の映画

話題 神奈川新聞  2019年05月27日 12:25

 JR新大久保駅(東京都新宿区)で2001年、ホームから転落した男性を助けようとして帰らぬ人となった韓国人留学生、李(イ)秀賢(スヒョン)さん=当時(26)=が「私たちの心に遺(のこ)したもの」をテーマに制作されたドキュメンタリー映画「かけはし」の上映会が26日、横浜市金沢区の市金沢産業振興センターで開かれた。李さんの母親である辛(シン)潤賛(ユンチャン)さん(68)が登壇し、日本語で上映に感謝の言葉を述べた。


上映会後、観客と交流する辛潤賛さん(左)=横浜市金沢区
上映会後、観客と交流する辛潤賛さん(左)=横浜市金沢区

 李さんは、日本人カメラマンとともにホームから飛び降り救助に当たったが、電車にはねられ3人とも亡くなった。事故は大きく報道され、来日した李さんの両親のもとには全国から弔慰金が寄せられた。

 「日韓の架け橋になりたい」。生前、こう話していた李さんの遺志を継ごうと、両親は弔慰金を寄付し、02年に日本語学校生を支援するNPO法人LSHアジア奨学会が設立された。17年10月現在で、18カ国からの844人を支援してきたという。

 同作品は、関係者インタビューを通して李さんの人生を振り返り、両親や同奨学会の留学生支援活動を描くとともに、日韓国交正常化50周年を迎えた15年に来日した韓国の大学生と日本の人々の触れ合いを追い、民間交流の意義を語り掛ける。企画・製作に当たった中村里美統括プロデューサーは「人と人との関係は国を超えた架け橋となり、平和を生み出す礎となる。作品を通して人々の心に平和の種がまかれれば」と思いを語る。

 辛さんは息子の死去後、毎年命日には夫の李(イ)盛大(ソンデ)さんとともに新大久保駅を訪れ、奨学会設立後は、奨学金の授与式に必ず参加してきた。盛大さんが3月に急逝したため、今回は上映会に合わせて初めて1人での来日になった。上映後、日本語で来場者に「みなさまが息子を忘れなかったら、私はいつも日本に来る予定です。(みなさんに)お会いできて本当にうれしい」とあいさつした。

 同作品は6月に韓国で初めて上映されるほか、全国での自主上映会開催を呼び掛けている。問い合わせは中村さん(info@musevoice.com)へ。

母「民間交流さらに」

 政治的に関係が冷え込んでいる日韓関係。辛潤賛さんは上映会後、神奈川新聞社の取材に「こういう時代だからこそ、民間交流がもっと活発になり、友好を深めることが非常に大切だ」と力を込めた。

 これまで「数え切れないぐらい」日本を訪れているという辛さんだが、初来日は愛息の死去後だった。それまで日本に対しては「受けていた日本による植民地時代についての歴史教育と同じ認識だった」と、負の印象があったことを明かす。

 だが、日本から一時帰国した息子は、「日本は経済的にも優れているが、素晴らしい人が多く、学ぶことがたくさんある。ぜひ一緒に行こう」と熱心に説いた。肩を並べて日本の街を歩くことはかなわなかったが、その後来日するたびに「親切な方が多く、文化的に感銘を受け、日本がますます好きになった」と穏やかにほほ笑む。

 両国の関係改善は暗礁に乗り上げているかに見える。「民間交流は非常に活発に行われている。だが日本でも韓国でも、一部の『反日』『嫌韓』団体が関係悪化を煽(あお)るような言動を繰り返し、それがメディアにあまりにも取り上げられている。心が痛い」

 社会にはヘイトスピーチなどのお互いを攻撃する言説があふれるが、「実態はそうではない」と断言する。政治的な溝は深まるばかりだが、「両首脳が虚心坦懐(たんかい)に話し合う」ことで道が開けると信じている。


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