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検証・日銀(下)藤井元財務相に聞く 滅亡招く超金融緩和

社会 神奈川新聞  2016年09月20日 09:20

「超金融緩和は目先は変えるが、必ず大きな落とし穴がある」と警鐘を鳴らす藤井裕久元財務相 =都内
「超金融緩和は目先は変えるが、必ず大きな落とし穴がある」と警鐘を鳴らす藤井裕久元財務相 =都内

 蔵相、財務相などを務め、半世紀にわたり第一線で日本経済を見つめてきた藤井裕久氏(84)は、日銀の大規模金融緩和が及ぼす弊害に危機感を募らせる。低成長下の日本経済を下支えするのは、金融緩和でも公共事業でもなく、「社会保障と雇用政策の二つに尽きる」と訴える。 

国債急落のにおい


 -日銀は20、21日、3年半に及ぶ大規模な金融緩和の「総括的な検証」を行う。

 「非常に大ざっぱに言うと、日銀の黒田東彦総裁は今のままでいいとは半分以上思っていないと思う。彼は財政健全化はやらなければいけないと言っているが、今は間接的に国債を買ってカネをばらまいている。財政を緩やかにしていることは間違いない。言っていることとやっていることが矛盾しているが、いろいろな場で財政健全化の必要性を語っているのは、ある程度分かっているからだと思う。もう一つは、日銀が保有する国債に見合う引当金を積み立てようとしていること。これは、国債の価格が下落した場合に穴埋めするためのもので、国債価格が落ちることを頭に置いている。黒田さんは、相当注意していると思う」

 「しかし、黒田さんが(大規模緩和に積極的な)安倍晋三首相によって総裁に任命されたという事実は動かしがたい。マイナス金利導入に反対した日銀の審議委員が任期満了で退任後、安倍さん的な発想をする人を新たに審議委員として任命した。そういうことをするのが、安倍さんなんです。そういう安倍政治を見て、黒田さんが半身に構えながら、どういう態度を取るのかは分からない」

 -話はややそれるが、人事というと、日銀と同様にNHKの会長人事など、自身に都合のいい人物を登用する傾向が安倍首相にはあると思う。官僚の幹部人事を一元的に管理する内閣人事局も発足させた。

 「許せない話、安倍政治の欠陥だと思う。日銀にせよ、NHKの籾井勝人会長なんてめちゃくちゃ。特に『沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない』と(経営委員退任後に)発言した百田尚樹氏をNHKの経営委員にしたことを、僕は許せない。戦前にマスコミを抑えたことが戦争に突き進んだ一つの理由であることを考えると、安倍政治のマスコミに対する態度は本当に許せない」
 

円安政策の弊害



 -金融緩和から引き締めに転じる「出口」は、タイミングが難しい。

 「3年以上前からずっと言ってきたが、超金融緩和は確かに目先は変えるが、必ず大きな落とし穴がある。異常な事態なのだから、誰かがいつか、止めなければならない。だが、安倍さんが首相をやっている限りは続けるんでしょう。そうすると、日本は滅亡的な状況になる。黒田さんが総裁を辞めることによって解消するのも一つの案かもしれない」

 -出口では、為替は相当円高に振れると思うが。

 「そうなります。カネをばらまくというのは円安政策で、格差も広がる。なぜなら、株をやれるのはごく一部。円安だから一部の輸出業者はもうかるが、輸入品は上がる。その代表例は食料品。日本の食料自給率は4割を切っている。所得の低い方たちに特に影響が出る」

 「私は、もう円安の時代は終わっていると思っている。なぜなら、米国は日本の円安に極めて批判的。日本がいかに頑張っても、それを許さない国際環境がある。歴史を見ても、昭和初期に米英仏が世界大恐慌の後、徹底した通貨安政策、関税高政策をやって生き延びようとし、日独を怒らせ、戦争になっている。通貨安政策は経済戦争。通貨安政策を取るのは、怖いことなのです」

 

逃げる株のプロ


 -株の関連では、安倍政権は公的年金の運用で、株式の運用割合を2倍(50%)に引き上げた。そして、株価の下落で、2015年度に5兆円以上の損失を計上した。

 「戦後70年余りの首相の中で、株だ、株だと表立って言っているのは安倍さんだけ。もちろん、株を横目で見ていた首相はいたが。しかも、公的年金の運用で株の割合を倍増した。株は永久に上がるわけではない。ひどいことだ。年金の受給者に対して失礼だと私は思う」

 「昨年の11月、株の専門家に呼ばれた会合で、『こんなこと(超金融緩和)をやっていて大丈夫ですか』と言われた。彼らは非常に疑問視をしており、もう逃げている。それが今年1月からの株の乱高下の大きな原因だと思う」

 -安倍首相は一方で、消費増税の再延期を決めた。

 「日本の消費税は世界に類例がない目的税。医療、年金、介護、子育てにしか使えない。消費税の増税時期を延期するということ自体、社会保障を軽視している。今の超金融緩和は目先を変える効果はあるが後の効果はない。もうやめる時期だ。どうすべきかは経済状況で決まるが、今の経済状況は間違いなく低成長。先進国が低成長というのは常識だ。日本は加えて、世界でも類がない少子高齢化。それが現状だ」

 「国内の弱い経済を下支えするのは、大企業の減税でも、一過性の効果しかない公共投資でもない。社会保障と雇用政策、この二つに尽きる。社会保障に対しては消極的な意味しか認めない人がいる。恵まれない人にやるのはマイナスではないかという人がいる。しかし、今、弱い経済を強くするには、そういう人たちが消費をする気持ちになる安心感が大事だ。だから、社会保障を安定させることは大事なのだ。ただ増やすというのではなく、仕組みとして安定させなければいけない」

 「雇用政策については、今、雇用が良くなったというのは事実かもしれないが、非正規雇用を変えていかないといけない。こう指摘すると、『俺たちは一生懸命働き、人件費のコストを抑え、何とかぎりぎりでやっている』と言う方がいる。それはよく分かるが、非正規雇用では消費を増やさない。国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費を増やすには、正規社員にして雇用を安定させないと増えないのです」


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