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2019年4月の紙面から
公正な選挙報道とは

ジャーナリズム時評 神奈川新聞  2019年05月19日 00:12

山田健太・専修大学教授
山田健太・専修大学教授

 デジタル化の大波が押し寄せる中、報道機関の活動(ジャーナリズム)の必要性は高まっていると言っていいだろう。まさに新聞の存在価値そのものでもある。こうしたジャーナリズムのありようを専修大学教授の山田健太さんに、日々の紙面を通じ論評してもらう。(次回からは毎月第3水曜日掲載)

 選挙の際、報道機関には重要な社会的役割が制度上定められている。新聞やテレビは、それに応えようと多くのヒト・モノ・カネを投入してきた。その結果が、私たちの目にする紙面や番組であるが、果たしてそれらは本来の役割を果たしているか。

「原則禁止」


やまだ・けんた 専修大学ジャーナリズム学科教授・学科長、専門は言論法、ジャーナリズム研究。早稲田大学大学院、明治大学大学院でも情報法を教える。日本ペンクラブ専務理事。放送批評懇談会、自由人権協会、情報公開クリアリングハウスなどの各理事を務める。ほかに、世田谷区情報公開・個人情報保護審議会委員など。主著に「沖縄報道」「法とジャーナリズム 第3版」「放送法と権力」「見張塔からずっと」「言論の自由」「ジャーナリズムの行方」「現代ジャーナリズム事典」(監修)。

 選挙期間中(公示から投票日の前日まで)と投票日は、表現の自由に関し、特別なルールが適用されている。この間の表現活動の主役(さまざまな表現行為をする主体)は2人いて、その1人は立候補者だ。選挙カーで名前を連呼したりポスターを張ったりといった表現行為を、まとめて「選挙運動」と呼んでいる。そしてもう1人の主役が報道機関で「選挙報道」と呼ばれている。この二つが相まって、有権者に必要十分な政治選択のための情報を届けることができるように、制度設計されているというわけだ。

 もちろん憲法は表現の自由を保障していて、誰でも、いつでも、好きな場所で、好きな方法で、好きなことを言えることを保障してきている。ただし選挙に当たっては、公正な選挙の実現という重要な「国益」を守るために、一定の制限をすることを認めてきている。その結果として日本の場合、現行の選挙制度が確立した戦後、選挙運動を「原則禁止」として、立候補者が総じて量的に平等な表現活動をすることで、公正さを実現しようとしてきた。

 そのうえで、公設のべニアのポスター掲示板において、決められた番号の場所にポスターを張ることや、選挙管理委員会が配布したシールを添付したものに限り、投票依頼のはがきを出すことなど、極めて限定的に認められてきている。これらは、資金量の多寡にかかわりなく平等な選挙運動を実施するための知恵であったということだ。

 そのかわり、国政選挙などでは「政見放送(経歴放送)」や「選挙広告(選挙公報)」が、公費で賄われていて、候補者情報を伝える手だてが整備されてきた。これまた、平等かつくまなく候補者情報を有権者全員に伝えるための、日本独特の工夫である。

 この背景には、日本には「マスメディア」が実質的に存在しているという事実がある。選挙区全域で誰もが簡単に無料でみられるテレビがあるからこそ、政見放送が成立するわけだ。同様に、ほとんどの家庭で広く定期購読されている新聞だからこそ、公費で選挙広告(候補者PR広告)を出す意味があることになる。

自由の意味

 候補者情報を行き渡らせる媒体として特別な役割を担っている新聞だが、むしろ重要なのは「選挙報道」としての社会的任務だ。候補者の選挙活動が厳しく限定されているからこそ、その不足分を埋め、候補者の政策等を十二分に有権者(読者)に伝えることが求められている。そのため一般日刊紙には、わざわざ公職選挙法で、選挙期間中の報道の自由が認められているのである。

 これを受けて本紙でも従来、(1)選挙区ごとの候補者の優劣など選挙戦の様子を伝える「情勢報道」、(2)各候補者および所属政党の政策を伝え・分析・論評する「政策報道」を2本柱に行ってきたことが、この間の紙面からも伺われる。さらに言えば選挙期間後については、(3)投開票の速報と、選挙結果の分析・今後の見通しが三つ目に挙げられるだろう。

 今回の選挙戦においても、本紙の選挙報道はくまなく選挙区をカバーし、質量ともに大変充実したものになっている。そうしたなかでの課題は、とりわけ県紙にとって重要な、地方選といわれる県内の首長(県知事・市町村長)や議会選挙において、個々の選挙区の候補者の是非を判断する情報を提供しきれているかということだ。

 従来の取材手法である、世論調査や出口調査といった投票行動予測や、選挙区を回ることで得られる記者のいわば皮膚感覚による情勢報道の妥当性ということになる。国政選挙レベルでは実施されている日常的な政治活動の点数化、事件が起きるとなされることもある政治活動資金の使用用途の検証など、日々の議員活動をデータで「見える化」するような取材や報道が、むしろ新聞の取材力に期待はされていないだろうか。

 それは単に選挙期間中というよりも、日々の地方政治の報じ方の課題であるだろう。紙面でも紹介されている横須賀や茅ケ崎の市民グループの取り組みを紹介することにとどまらず、新聞社自身が候補者一人一人を、きちんと「評価」することが、政治との距離を縮めることにもなろう。

歪みの是正

 これまでこうした作業は手間がかかるという理由以外にも、選挙期間中の報道の公正さを担保できないなどの理由で敬遠されがちであった。前述の法に、「表現の自由を濫用(らんよう)して選挙の公正を害してはならない」と規定されていることに由来する。

 しかしむしろ、公正さが害されないように、各候補者の政策(公約)や行動(政治団体との関係)を厳しくチェックすることが必要であって、特定の候補者(それがたとえ現職であっても)のみを批判する結果になることをおそれてはならないだろう。

 こうした新聞社の活動は、すでに発生している選挙運動の中での情報の歪(ゆが)みの是正にも役立つはずだ。その歪みの一つがフェイクニュースで、自由化されたネット空間を活用し、候補者のリアル社会における発信量が一定程度限定されていることを逆利用して、虚偽情報を拡散させ、投票行動に影響を与える事態が一部で生まれている。

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