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時代の正体 地域格差考
「消滅」の危機 県内も(下)逆境が開く新たな道

時代の正体 神奈川新聞  2019年05月12日 11:31

山地酪農に取り組む島崎さん=山北町の大野山
山地酪農に取り組む島崎さん=山北町の大野山

 子どもたちの声が消えた山あいの集落に、笑い声が戻りつつある。山北町共和地区の旧共和小学校。廃校跡を拠点に、地域住民が中心となって立ち上げたNPO法人「共和のもり」が山村の再生に挑む。

 今まで目を向けてこなかった山林こそが財産だ。県産材の利活用を働きかけるばかりではない。森を守り、生かすために都市住民向けの炭焼きや森林体験のワークショップを開催する。知恵の源泉は危機感に他ならない。

 「行政に頼ってばかりはいられない。自分たちで人を呼び込み、お金を稼ぐ仕組みをつくらないといけない」。前町議で、同NPO法人理事長の井上正文さん(74)は語る。地域の経済力を高めることが、際限なき負の連鎖へのくさびになるとみる。

 補助金に頼らず、独立採算で活動費を捻出するまでになった。新たな雇用の創出には至らないが、志に共感する若者たちが集落に移り住んでいる。

 転機は2015年度の県立大野山乳牛育成牧場の閉鎖だった。共和の集落が県に貸していた土地の賃料が絶たれるだけではない。人の手が入らなければ山は荒れていく。「この村には何もなくなってしまう」。地元有志はつてを頼り全国の牧場に声を掛けた。手を挙げたのは、若き女性酪農家だった。

 相模原市緑区出身で、岩手県の牧場に勤めていた島崎薫さん(30)。県営牧場の跡地の1部8・8ヘクタールを借り、乳牛を放牧する「山地(やまち)酪農」に取り組む。

 「私たちみたいな年代の外から入ってくる人に対しても、よくしてくれる方が多い。野菜をお裾分けして頂いたり、作業を手伝ってもらったり、いろいろな面で支援してもらっている」

 自らの志に加え、住民と手を携え、山づくり、地域づくりにも力を注ぐ。

 共感はじわりと広がる。今、山あいの集落には林業や木工など、山村ならではの新たな生き方を模索する20代、30代がいる。

 今ある魅力に着目する動きがある一方、30年前には見られなかった働き方に活路を見いだす向きもある。

 真鶴町が切り口とするのは、IT関連企業のサテライトオフィスなど、場所を選ばない働き方だ。平地が少ない半島は、工場や大企業などの誘致にはなじまない反面、創作の場を求めるアーティストには魅力的に映るかもしれず、可能性は広がる。

 本社以外に設置するサテライトオフィス、時間や場所の制約を受けず柔軟に働くテレワーク…。情報通信技術の発達やライフスタイルの変化とともに多様な働き方が生まれた21世紀。人はどこから来てもいい。海外の旅行者を招き入れてもいい。

 2017年11月、町が国の交付金を活用し、シェアオフィス事業などを手掛ける「真鶴テックラボ」を整備した。町観光協会が運営し、英国、米国、タイなどの旅行者が短期の仕事場として利用するなど、多様な働き方を求める人が関心を寄せつつある。

 仕掛け人の一人、同協会の柴山高幸さん(37)は言う。「小さい町だからこそ小回りがきき、新しい試みができる。小さな失敗を重ねて成功に導かないと」

 ただ、一過性の流入ではかりそめの延命策で終わってしまう。

 「真鶴に住みたいという魅力がどこまであるか。私自身、暮らしやすいのは地縁、血縁があるから」。柴山さんの言う「魅力」はしかし、外から来た人たちこそが感じているのかもしれない。


真鶴港近隣にパン店を開業した清水さん。「第二の故郷」と充実の日々を送る=真鶴町真鶴
真鶴港近隣にパン店を開業した清水さん。「第二の故郷」と充実の日々を送る=真鶴町真鶴

 テックラボをきっかけに昨年、真鶴港のほとりにパン店を開いた清水秀一さん(34)。相模原市内のニュータウンで生まれ育ち、東京・八王子のパン店で修行した。背中を押したのは真鶴の日常風景に他ならない。

 「個人店が頑張っていてこれから面白くなる町。変わりゆく町の一員になりたいと思った。そして人のつながり。町を歩いていても声を掛けられるし、買い物をしていても会話がある。それが新鮮だった」

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