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時代の正体〈504〉横田弘さんと相模原事件【4】怒りを「分かち合う」 二松学舎大専任講師・荒井裕樹さん

時代の正体 神奈川新聞  2017年07月29日 11:45


あらい・ゆうき 専門は障害者文化論、日本近現代文学。著書に、「差別されてる自覚はあるか 横田弘と青い芝の会『行動綱領』」(現代書館)、「障害と文学 『しののめ』から『青い芝の会』へ」(現代書館)など。
あらい・ゆうき 専門は障害者文化論、日本近現代文学。著書に、「差別されてる自覚はあるか 横田弘と青い芝の会『行動綱領』」(現代書館)、「障害と文学 『しののめ』から『青い芝の会』へ」(現代書館)など。

 【時代の正体取材班=成田 洋樹】社会を震撼(しんかん)させた相模原障害者施設殺傷事件から1年。障害者の尊厳が踏みにじられたことに対し、私たちの社会の受け止め方はどこか冷めていないか。詩人だった故横田弘さんの晩年に、脳性まひ当事者団体「青い芝の会」の行動綱領や詩を巡って対話を重ねた二松学舎大専任講師の荒井裕樹さん(37)に聞いた。

共生はどこへ


 横田さんたちが障害者運動を始めた1970年代は、障害者が街に出て電車に乗るだけで周囲の空気が凍りつく時代だった。「障害者が街にいる」ことが、どういうことなのかを身をもって示し、人々の意識を変えていった。

 いま街で障害者を見掛けても、空気が凍るような場面は少ない。それは街を行き交う人が優しくなったからというよりも時間をかけて「障害者が街にいる」「障害者と街にいる」感覚を育んだ人たちがいたからだ。その中心に、横田さんがいた。

 障害者に対する社会のまなざしは、表面的には柔らかくなったのかもしれない。「みんなちがってみんないい」「障害は個性」…。障害を否定的に見ない表現が近年増えた。だが、障害者を「弱くて、かわいそうで、不幸な人」とイメージする人は依然として少なくない。そんな時代状況の中で、あの事件は起きた。

 植松聖被告は警察に「障害者なんていなくなればいい」と供述したとされ、衆院議長への手紙では「障害者は不幸しかつくらない」と記していた。その身勝手な考え方に怒っている人はいると思う。だが、19人の障害者の命と尊厳が傷つけられたことに対して、私たちの社会はどこまで怒ることができているだろうか。

 障害者団体の当事者らは後者の文脈で怒っているが、その怒りが社会に浸透しているとは言えない。犠牲になったのが障害者だからといって、怒りが目減りすることがあってはならない。いま怒らなければ、世の中に傷つけられてもいい命と尊厳があると認めることになってしまう。「共に生きる」という言葉を社会が掲げたとしても、怒るべき時に怒らなければ共生とは言えない。共に生きるパートナーとして障害者を見ていないことになるからだ。
 

はびこる憎悪



 横田さんの主著「障害者殺しの思想」は事件後に売れ行きが伸びたが、存命ならば本人は快く思わないだろう。半世紀近く前の1970年代から横田さんが訴え続けた「障害者を殺すな、排除するな」というアピールを引っ張り出してこなくてはあの事件に抗(あらが)えないのか、いまの社会の中に怒りの言葉はないのかと思っているに違いない。

 晩年の横田さんは、障害当事者が怒りの声を上げることが少なくなっていると感じていた。確かに障害者の暮らしを支える制度は以前より整ってはきていた。だが、差別がなくなったわけではない。「障害者は自分にかかわることなのになぜ怒らないのか。障害者運動の精神が十分に引き継がれていないのではないか」という危機感を抱いていた。

 私も、横田さんからたびたび怒られた。

 子どもを預ける保育所を探す「保活」が話題になった時のことだ。「荒井君、なんでもっと怒らないの? 自分のことだろ」。東日本大震災があった2011年に長男が生まれ、共働きのために保活に追われた。待機児童対策が手薄な行政に、なぜ怒らないのかという問いだった。私自身、社会に対して怒るのは得意ではない。怒りの対象に出くわしても、ぐっと言葉を飲み込んでしまうところがある。

 いまは社会に対して怒りの声を上げるとバッシングの対象になりやすい。子育て中の母親が率直な思いを記したブログ「保育園落ちた 日本死ね」が16年に話題になり、共働きの親としては共感したが、「死ね」という表現に問題があるということでバッシングが起きた。「もっと丁寧な言い方をしたほうがいい」と諭す人もいた。

 だが、切羽詰まっている当事者が感情を爆発させることは、そんなに悪いことなのか。そういう形でしか表現できない理由を考えることが大事だ。苦しくて言葉にならないほどうめいている人に「もっと聞きやすい声を出せ」とは言えない。うめきは社会のゆがみへの警鐘だ。社会のゆがみに気付いていない人は、うめく人を否定する。

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