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酒と涙と男と天ぷら(11)
新装開店、気合いのお色直し

話題 神奈川新聞  2019年06月28日 01:51

48年ぶりのリニューアル。女将は愛嬌(あいきょう)、職人は度胸
48年ぶりのリニューアル。女将は愛嬌(あいきょう)、職人は度胸

 四カ月近くに及ぶ工事もやっと終わり、ウチの店も九月後半に新装開店できました。明治五(一八七二)年に横浜市中区初音町の赤門前に初めて店を構えて以来、五度目のお色直しとなりました。

 ひいじいさんの代に伊勢佐木町四丁目の井上漆器店隣に移り、三代目のジーちゃんの時に、なんと三回も店が燃えたんですな。一回目は関東大震災で焼失し、二回目はもらい火。三回目は横浜大空襲で全焼し、戦後、今の関内にひっそりと登場し、今回の改築となった次第です。

 三回も店を建て直したというのがジーちゃんの自慢で、確かにわがジーさんながらいい根性してますね。ちなみに江戸時代は火事が多くて、家を建てるとき、すでに次の家の材木を買っておくというのは当たり前だったらしいですよ。鬼平犯科帳にそう書いてあります。火事と喧嘩(けんか)は江戸の華って言うもんね。

 それにしても四カ月は長かったすね。休業に入ったら規則正しい生活をし、ジムに通って体を鍛え、英会話の勉強をし、強くて頼られる男に生まれ変わる予定でしたが、休みに入った途端「明日からガンバロウ症候群」を煩い、ぼんやりと毎日を過ごしていました。

 子供のころから意志薄弱で気が小さいくせに、立派な計画を立てる癖があり、「言うことはご立派!」と母上にホッペをつねられていましたが、この年になっても矯正できていない自分を再確認しました。母上には内証です。

 しばらく家に閉じこもっていると、外に出るのは趣味の料理の買い物だけ。昼すぎに毎日行くスーパーのレジのおねーさんと顔なじみになって、あいさつを交わすようになりました。一カ月たったころ、優しくこう聞かれました。「お仕事見つかりました?」「いやまだなんですよ」と自然に答える僕がいました。

 そんな状態を救ってくれたのが、八月に横浜高島屋さんで催された「神奈川名産展」への出店でした。百店ほどの神奈川の有名店が出店するんですが、ウチは唯一、お食事ができるスペースを任せていただきました。怖くなるほど広くて、初舞台のようにおろおろしながら開店を待っていたのです。

 ところがいるモンデスネー。横浜高島屋さんて六十歳以上の会員が高島屋の中で日本一多いんですって。始まった途端に会場は通勤ラッシュ状態で、ウチでもホッとするやら混乱するやらで皆さまに大変ご迷惑をおかけしました。良いことも悪いこともすべてが勉強になりました。

 おかげさまでなんとか無事終了し、出店した他店のスタッフや、高島屋催場担当の皆さんに「気合」を入れていただきました。オリンピックの期間中でもあり、頑張っている日本の選手を見て、感激に打ち震え、やっぱり人間は「気合だー!」と気付きました。

 これからは毎日早起きをして体を鍛え、気合を入れて生きていく予定です。母上にはもちろん内証です。

(2004.10.3)



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