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【平成の事件】神奈川県警不祥事
「隠蔽の成功がさらなる隠蔽を生む」キャリアの見た闇

社会 神奈川新聞  2019年04月24日 03:26

 キャリアの本部長が主導した覚醒剤隠蔽事件をはじめ、殺人、恐喝未遂、贈収賄、窃盗、性犯罪――。1999年9月から相次いで発覚した神奈川県警の不祥事は、過去に隠蔽した事案が表面化するだけでなく、新たな不正や犯罪が続々と発生して底なしの様相を呈した。混乱の収拾と組織の立て直しを託された警察官僚の金高雅仁氏は、処分と謝罪、対応に追われ続けた。前代未聞の不祥事対策に苦闘した後、警察組織の中枢を歩んだ元警察庁長官の金高氏が、県警不祥事の背景や教訓などを語った。(渋谷 文彦)


警務部長として対応に追われた神奈川県警の不祥事を振り返る金高雅仁氏=2019年2月、東京都千代田区
警務部長として対応に追われた神奈川県警の不祥事を振り返る金高雅仁氏=2019年2月、東京都千代田区

 覚醒剤隠蔽事件では当時の本部長ら5人が有罪になったほか、23人に上った大量処分で当時の警務部長や担当監察官が懲戒免職になり、停職や減給の処分を受けた幹部3人が辞表を出した。末端で関与した外事課員らも処分。組織と個人の関係が焦点になった。

 「覚醒剤を使用した警部補をホテルに軟禁して一週間ほど一緒に泊まり、(覚醒剤反応が出なくなるまで)尿を採り続けた外事課員の警部補らを処分したが、その時、ものすごい議論があった。本部長に直接言われたら逆らうかもしれないが、本部長命令は直接警部補には行かない。警備部長がいて外事課長がいて外事課補佐がいて重畳的になる。その命令に従った、抵抗しなかったことを処分理由にできるのか。これに、ずいぶん悩んだ」
 
 絶対的な権者から来る命令と、末端の行為の関係が難しく、苦悶した。下した結論は本部長注意。重視したのは、県民の視線だった。

 「組織と個人を考えると、最終的な処分を決めるのが非常につらかったが、結果的には私が判断した。懲戒処分は酷だがお咎めがあり、本部長が直接注意する処分にした。警察官は違法行為を取り締まる立場。それが上から言われて罪を犯し、お咎めなしでは県民の目が許さない。罪を犯せという命令を出しているのは、本部長であっても犯罪者。それを摘発するのが、県民が期待する警察官だと思う。そういう考え方を浸透しないといけないと思い、あえて処分した」

 神奈川県警の問題が連日報道される中、不祥事を積極的に公表しないよう指示したマニュアルを監察官室が91年に作成していたことも判明。「(公表は)一般市民への警察の信頼感と警察職員の士気を低下させるだけ」「マスコミとの摩擦を恐れるだけの安易な考えで公表することがあってはならない」と、不祥事隠しと受け取られかねない内容だった。

 「それが影響しているか別として、神奈川県警にはそういう体質があった。先行2事件(押収ネガ悪用の女子大生脅迫と集団暴行)を見ても、あれを表に出さないで処理するのはありえない。一つは業務に絡んだ悪質な懲戒免職、もう一つは凄惨なリンチみたいな事件なのに捜査もせず、なかったようなことを言う。いくつかの都県警本部を渡り歩いたが、あそこまでの隠蔽を見たことがない」

組織ぐるみで隠蔽、関与した全員、「心が一つ」になっていた

 そうした体質はなぜ生まれたのか。要因として指摘するのは上層部の姿勢、判断だ。

 「外部からの批判を恐れ、きちんと処理しても外には出さないという対応が、まず原型としてあった。外に出さないことを優先すると中で事案を共有しなくなり、何の対策も行われない。対策がないと同じことが繰り返され、またそこで伏せる。そういうことが繰り返されていくとエスカレートする。隠蔽の成功がさらなる隠蔽を生む。ついには証拠ががっちりありながら、事件がなかったことにしてしまえ、自分たちが決められるんだと。その最終的な形が本部長たちの事件だったと思う」

 「覚醒剤隠蔽事件では、最初に幻覚状態の警部補が女と一緒に当直に駆け込んでくる。誰が見ても幻覚状態なのに女を帰宅させた。それは本部長命令でない。女を帰宅させたら事案はどうなるのか。普通にきちっとやる対応に最初からなっていない。どこかに『これは内々になる』みたいなものがあったと思う。どういう姿勢で臨むかは上層部の判断。報告を上げても『内々で処理すべし』と上からくるので、だんだん横で分かってきて、このぐらいはやってもいいという、不祥事に対する甘い体質が県警全体の中にあったと思う」

 「覚醒剤隠蔽事件は本部長の滅茶苦茶な判断に誰も異を唱えずに従った。いさめに行く向きが、私の知る限りなかった。最後はみんな、言葉は悪いが『心が一つ』になっていた。嫌々だったかもしれないが、これは県警のため、これはやらなくちゃと」


覚醒剤隠蔽事件で元本部長らが起訴されたことを受け、苦渋の表情で頭を下げる金高警務部長=1999年12月1日、神奈川県警本部
覚醒剤隠蔽事件で元本部長らが起訴されたことを受け、苦渋の表情で頭を下げる金高警務部長=1999年12月1日、神奈川県警本部

 県警警務部長を務めた1年11カ月の間、金高氏が行った「おわび会見」は15回に上った。「ここで県民に見放されたら、何十年も信頼は回復しない」との危機感から、不祥事を明らかにして厳格に処分し、深々と頭を下げながら説明を尽くし続けた。警察への信頼こそが治安の基盤であり、信頼を崩す唯一の問題が不祥事だと考えるからだ。

 「本部長たちの事件を機に県警は大変なピンチとなり、信頼が消えていくことにほとんどの職員は危機感を持っていたが、連続空き巣にせよ、連続強制わいせつにせよ、あのさなかにずっと続いていた。非常にショックだったが、危機感が全員に共有できていなかったのだと思う。新たに起こったこともすごかった。殺人や、拘置中の女性の胸を触るとか、収賄とか。非常に不祥事に甘いが故に規律が弛緩し、ああいう厳しい局面でも全員が変わるには至っていなかった」

 厳格な処分、おわび、対策と、不祥事への対応に奔走する中、県警の一部の人たちに被害者意識のようなものがあると感じた。その背景には、警察官僚、キャリアの判断に対する思いがあるとの印象を持った。

 「私はどんどん摘発する側で不祥事を明らかにし、おわびを続けていた。それに対し、若干冷ややかに感じている人もいた。先行2事件で県警を炎上させたのは、本部長、警務部長の責任。そして、2代前の本部長があんなことをやっていたと、ほとんどの県警の人が初めて知った。それは全部東京からきたキャリアがやった。それで今度は(不祥事を摘発して)犯罪者扱いするのか、責任があるのはお前らだと考えた人もいたと思う。当然だと思う。県警の大不祥事は、どの事件もキャリアの責任が重い」

 覚醒剤隠蔽事件では県警トップの本部長ら5人が有罪となった。本部長経験者が在職中の犯罪を法廷で裁かれたのは初。キャリアのあり方もクローズアップされた。

 「あの事件が直接の契機とは言わないが、今はキャリアであっても必ずしも本部長にはならない。本部長の一言が組織、県民国民に与える影響を考えると、キャリアであるからというだけで本部長をさせることはできない。まっとうでない命令をするような人間は本部長にさせない。ちょっとでもそういうことが耳に入ったら代える」

 「私自身も本部長レベルの人には色々な話をずっとし続けた。神奈川県警の不祥事の話もした。体験したことがない人には実感がわかないので、つらい経験は語り継がないといけない。つらい体験をして作った制度の裏にはこういう事案があり、多くの人が苦しんだ。そうならないために、こういう制度があると、教えないといけない」

  2年弱で神奈川県警を去り、警察庁刑事局長、官房長、長官などを歴任。警察官僚として中枢を歩む中、神奈川県警の不祥事を受けた思いを伝え続けた。

 「不祥事に甘い体質が不祥事を生むと強く感じたので、どんな立場になってもそれを言い続けた。その経験が生きたと思ったのは、長官のときか、重大な人身安全関連事案で、やるべきことをやっていたという県警のコメントが上がってくることがあった。そういう風にやっていると、その県警はそうした事案に強くなれない。神奈川県警の不祥事と同じ。問題はなかったとすると、問題の原因を除去しようとか、意識改革しようとならない」

 「捜査でやるべきことはやっていたが殺人犯が捕まらなかったとき、問題なかったと誰も言わない。一生懸命やっても捕まらなければ失敗。警察とはそういう厳しさがなければいけない。それと同じで一生懸命やっても人の命を守れなければ失敗なんです。失敗は失敗と認めて、なんで守れなかったのか明らかにしろ。そうしないと人身安全関連事案に警察は強くなれないと、かなり厳しく言った。それは県警不祥事の経験が言わせたように思う」

迷ったら、原点に戻れ


金高雅仁氏が筆者に宛てた年賀状。神奈川県警を離れ、警察機構の中枢を歩みながらも、県警の状況をいつも気に掛けていた
金高雅仁氏が筆者に宛てた年賀状。神奈川県警を離れ、警察機構の中枢を歩みながらも、県警の状況をいつも気に掛けていた

 自身は警察庁長官を最後に2016年に退官。今年で神奈川県警の不祥事から20年。警察への信頼が根本から問われた一大不祥事のあった平成という時代が幕を閉じる今、後進たちに伝えたいものは何か。

 「昔は家庭や地域にそれなりの防犯力があったが、今はあまりない。だけど犯罪は減るし、日本の治安レベルは世界の中で、特に先進国の中でダントツに良い状態は変わらない。なぜかというと、国民が協力してくれるから。それが他の先進国と決定的に違う。今の治安の基盤は国民の協力だと思うが、それが得られているのは、国民が警察を信頼してくれているからなんです。結果もきちっと出すだろうと思っているだろうし、警官が間違ったこと、違法なことをするとは思っていない。ただ、その信頼を崩していくのは、唯一、不祥事だと思う。治安を守るためにも警察職員一人一人が曲がったことをしない、警察官らしい立ち居振る舞いをするのが基本。これだけは守ってくれと言いたい」

 「私が警察庁を選んだ理由の一つは、誰でも持っている正義感みたいなもの、なんとかしてあげたいという思いが、警察は自分の仕事としてできると思ったから。そういう仕事に従事できることが非常に幸せだと思った。警察職員は皆、どんな人間でも持っている正義感を実現するために警察官になったのだと思う。それを全うしてほしい。迷ったり、何かにぶつかったりしたら、その原点に戻れ。何のために警察官になったのか。そうすれば、進むべき道は見えますよ」


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