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現代美術家・渡辺篤
【ひとすじ】他者の傷に寄り添う

社会 神奈川新聞  2016年09月18日 12:39

つらい体験がつづられた投稿文について「短文にもいろんな傷が潜んでいる。それを読み取っていくことが大事」と話す渡辺篤さん=横浜市中区
つらい体験がつづられた投稿文について「短文にもいろんな傷が潜んでいる。それを読み取っていくことが大事」と話す渡辺篤さん=横浜市中区

 現代美術家の渡辺篤さん(37)=横浜市南区=は、自らの引きこもり体験を生かし、他者の心の痛みに寄り添う作品に取り組んでいる。「傷ついたからこそ分かることがある」と語る渡辺さん。同市の若手芸術家を育成支援する制度を利用して、海外での活動に向けた準備も進めている。 

 2014年12月、東京の画廊で開いた個展では引きこもりを象徴するパフォーマンスを行った。会場の中央に人がやっと入れるほどの小屋をコンクリートで作り、中に入って密閉。

 1週間後、厚さ5センチの壁をたたき壊して外へ出た。汗にまみれ、ひげが伸びて髪はべたべた。その様子は、引きこもっていた自宅の自室から出てきた3年前の姿をほうふつとさせるものだった。


□血の流れない自殺
 09年に東京芸大大学院を修了。芸大には4浪して入り、プライドもあった。だが才能ある友人たちへの嫉妬や制作上の悩み、結婚を考えていた女性との別離などが重なり、もともと10年近く患っていたうつ病もあって、10年の夏ごろから自室にこもるようになった。

 ほとんど寝たきりで過ごし、両親が起きている間は顔を合わせるのが嫌でトイレにも行かず、ペットボトルに尿をためた。携帯電話を壊し、ネット上からは自分のアカウントを消した。社会から自分の存在を抹殺するつもりだった。「血の流れない自殺だと覚悟していた」

 全く接触してこない母。幼いころは暴力を振るってきた父。家族への怒りがふつふつと湧いた。「自分が傷ついたことだけ見ていた。他人にどうやってその傷を返そうか、それしか考えていなかった」

 だが7カ月半が過ぎたころ、父に強制的に精神科へ措置入院させられそうになった。この先の人生を父に支配されたくないと思ったこと、母もまた心身ともに弱っており、自分が守らなければならない存在だと気付いたことで、部屋を出ようと決意。11年2月11日、東日本大震災の1カ月前だった。

 部屋を出る瞬間、自分のポートレートと汚い部屋を写真に撮った。自分はアーティストなのだと思い知った。引きこもっていたのはこの写真を撮るための場づくりだったのだ、と意識を切り替える意味もあった。

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