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時代の正体
重度知的障害者の1人暮らし 映画「道草」横浜上映へ

時代の正体 神奈川新聞  2019年03月26日 09:43

【時代の正体取材班=成田 洋樹】重度の知的障害がある若者が支援を受けながら都内で1人暮らしをする日々を追ったドキュメンタリー映画「道草」が30日から、横浜市中区の映画館「シネマ・ジャック&ベティ」で上映される。親元や入所施設で暮らす当事者が多い中、マイペースで自由に生きる姿が浮かび上がる。2016年7月に相模原市緑区の県立障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された事件で重傷を負った尾野一矢さん(46)が新生活を模索する様子も描かれている。


自由気ままに


ヘルパー(右)と一緒にブランコで遊ぶ岡部亮佑さん(宍戸監督提供)
ヘルパー(右)と一緒にブランコで遊ぶ岡部亮佑さん(宍戸監督提供)

 道端の花を摘み取ってはにおいをかいだり、たんぽぽの綿毛を吹き飛ばしたりしながらヘルパーと一緒に自由気ままに道草をする若者をカメラが追う。重度の知的障害、自閉症がある岡部亮佑(りょうすけ)さん(26)。特別支援学校高等部卒業から数カ月後に1人暮らしを始めてから7年半余り、日中は通所施設に通いながら、都内の自宅アパートでヘルパーの手料理を食べ、一緒に風呂に入り、川の字になって寝る毎日。常に介護が必要な障害者の生活全般を公的に支える「重度訪問介護制度」を使って、ヘルパー約10人が交代でサポートしている。

 ヘルパーと亮佑さんの関係は、「支える、支えられる」という一方的なものではない。ティラミスを食べたばかりなのに、カレーうどんに加えておにぎりも食べたいという意思を言葉や身ぶりで示す亮佑さんとヘルパーとの食事の量を巡る駆け引きのシーンは、ユーモラスで観客の笑いを誘う。「りょうすけ」と親しみを込めて呼ぶこの男性ヘルパーは、亮佑さんが11歳のころからの付き合いだ。ヘルパーが妻子と暮らす自宅で亮佑さんの誕生日を祝う場面も収められ、子どもたちから「りょうちゃん」と慕われている様子が伝わってくる。


ヘルパー(左)との外出で笑顔を見せる中田裕一朗さん(宍戸監督提供)
ヘルパー(左)との外出で笑顔を見せる中田裕一朗さん(宍戸監督提供)

 16年4月から2年かけて撮影し95分の記録映画にまとめたのは、宍戸大裕(だいすけ)監督(36)。車いす利用者で人工呼吸器を付けた海老原宏美さん=川崎市出身=らが街中で暮らす姿を追った映画「風は生きよという」で知られている。

 亮佑さんの父親で、この映画の上映会を企画した早大教授の岡部耕典さん(福祉社会学)から「息子の暮らしぶりを撮影してほしい」と依頼されたことがきっかけだ。亮佑さんの1人暮らしについて講演会などで説明しても信じてもらえないと感じていたからだった。

 重度の知的障害者は親元や自由度が低い入所施設で暮らすケースが大半で、地域での住まいの場としては少人数で暮らすグループホーム(GH)がある。だが、集団生活になじめない当事者にとって選択肢になる「支援付き1人暮らし」は事業者が少ないことなどから、保護者や福祉職の間で選択肢として受け止められていないのが実情だ。全国的にも実践例は数十人程度とみられている。


ヘルパー(右)とのやり取りを楽しむ桑田宙夢さん(宍戸監督提供)
ヘルパー(右)とのやり取りを楽しむ桑田宙夢さん(宍戸監督提供)

 カメラはさらに2人の男性の1人暮らしに迫る。7歳から10年にわたって入所施設で暮らしていた桑田(くわだ)宙夢(ひろむ)さん(22)は、自傷他害が減り、表情が豊かになって発語する言葉も増えたという。入所施設で受けた疑いがある虐待の影響からか「刺すぞ」といった暴言をはくことがある中田(なかだ)裕一朗(ゆういちろう)さん(30)はヘルパーとの外出で穏やかな笑顔を見せるが、部屋にこもって壁をたたくなど緊迫した状況も収められている。

 タイトルの「道草」には、目的も行き先も時間も決めずにひたすら街中を歩く当事者たちの姿から取られた。移りゆく四季の中、鳥のさえずりを受けながらヘルパーと一緒に時を刻んでいく様子が描かれ、宍戸監督は「人も動物も生きることに目的や理由は必要ない。人間はそのことを忘れ、不自由に生きていないか」と問い掛ける。

 どんな命も生きて在ること自体が尊い-。そのことを否定し、言葉での意思疎通ができるかどうかだけで命が選別されたのが、津久井やまゆり園事件だった。

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