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ヨコスカと空母・第2部
空母交代(1)冷戦終結も「米はアジアに関与を続ける」

社会 神奈川新聞  2019年03月29日 13:37

 米海軍が西太平洋に持つ拠点、横須賀には、1973年10月から空母「ミッドウェー」が配備されていた。1945年就役の最古参の空母が退役する予定時期は91年夏に迫っていた。

 折しも1989年には東独でベルリンの壁が崩壊し、米大統領ジョージ・H・W・ブッシュとソ連共産党書記長ミハイル・ゴルバチョフのマルタ会談を経て、冷戦の終結が宣言される。軍縮の時代に世界が向かいだす中、米国はアジア太平洋地域でのプレゼンス維持を選び、横須賀に配備する空母を交代することを決めた。横須賀は、米空母の恒常的な母港としての道を歩み出すことになる。

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 アジアを歴訪してきた米国防長官のディック・チェイニーは1990年2月21日、横須賀基地にヘリコプターで降り立った。基地司令官らとともに出迎えた横須賀市長の横山和夫とあいさつを交わした後、空母「ミッドウェー」を視察した。

 チェイニーは翌日、日本政府との会談を済ませ、23日には東京・内幸町の日本記者クラブで講演した。

 「伝えたいメッセージは、米国がアジアにコミット(関与)し続けることだ。前方展開戦略をやめれば、アジアに真空が生まれて紛争が起きるだろう」

 チェイニーは在日米軍、在韓米軍の再編も「安定を保障する穏やかな調整を検討している」と、基本的な戦闘能力には変化がないことを説明する。「相互の安全への同盟国の貢献の改善を期待し続けなければならない」とも述べ、日本を含む各国の防衛協力に強い期待を表してみせた。

 そして、ミッドウェーの退役後には通常型空母「インディペンデンス」を横須賀に配備することを、初めて明言した。

 インディペンデンスは1959年1月に就役したフォレスタル級の通常型空母で、ミッドウェーよりも船体は一回り大きい。ベトナム戦争当時の1965年秋には、横須賀に入港したことがある。

 ミッドウェーの配備時に外務省が「おおむね3年程度」と見通した横須賀の空母配備が、船を入れ替えて恒常化していくことを、この交代は意味していた。

 横須賀市には、外務省から「空母ミッドウェーの交代について」と題した文書が届いた。

 「訪日中の米国防長官より、1991年中に空母ミッドウェーを通常型空母インディペンデンスと交代させ、その乗組員家族を横須賀市及びその周辺に居住させる予定である旨連絡があった。政府としては、交代による第7艦隊のわが国周辺におけるプレゼンスの維持・強化はわが国及び極東の平和と安全に資するものであり、歓迎する。市の理解を賜りたい」

 日米間には、在日米軍の配置・装備の重要な変更、日本を基地とする作戦行動には、両国が事前に協議するという決まりがある。1960年の日米安全保障条約改定の際の交換公文で取り決められたものだ。横須賀市は外務省に文書で「協議が行われなかったことは遺憾だ。どういう理由か」と照会した。

 外務省からの返事は口頭だった。「海外家族居住計画に基づき米第7艦隊の空母の乗組員家族が横須賀市やその周辺に居住するという実態を何ら変更するものでなく、(ミッドウェー配備時の)昭和47年に行った(市への)意向打診を改めて行う考えはない」

 3月2日、横須賀市議会常任委員会。「外務省の歓迎する理由については理解ある立場だが、歓迎する、歓迎しないということは言わないことにしたい」。市長の横山和夫は答弁で、空母交代に対する明確な態度表明を避けた。今後は国と協議を求める考えを断念し、新たな空母乗組員がもたらす治安の対策を求める姿勢に、軸足を移す考えを示した。

 むしろ神奈川では、空母交代に伴い、厚木基地(大和、綾瀬市)の周辺に艦載機がもたらす騒音被害が深刻化することへの懸念が強まっていた。ミッドウェーより船体の大きいインディペンデンスなら、搭載可能な艦載機の数も20機ほど増える。戦闘機F14「トムキャット」や対潜哨戒機S3「バイキング」も搭載できるようになる。

 折しも1980年代からは、厚木で艦載機の離着陸訓練が始まるようになっていた。基地の周辺では開発が進み、過密化が深刻化していた。夜間の訓練がもたらす航空機騒音は、深刻な被害を生活の場に招いていた。

 退役直前のミッドウェーも、1990年6月20日に惨事に襲われた。海上自衛隊との訓練に参加するため千葉県沖を航行していたとき、空母から艦載機を押し出す発進装置(カタパルト)付近から、煙が噴き出した。30分後に爆発が起き、火の手が上がる。1時間後にも再び爆発が起きた。空母の航行能力は失われなかったが、死者3人、重軽傷者は15人に上った。横須賀の街からは、空母の安全性に関する不安の声が高まった。

(敬称略)


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