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記者の視点=運動部・矢部真太(平成4年生まれ)
【平成に生まれて】(5)シールズのその後(上)

社会 神奈川新聞  2019年03月19日 10:35

◆自分にできることを

 2015年夏、国会前などで安全保障関連法の反対を訴え、社会の耳目を集めた学生団体「SEALDs」(シールズ)。現在は解散し、メンバーはそれぞれの道で「政治に、社会に対して何ができるのか」と葛藤しながら生きている。創設メンバーの1人だった記者がかつて同じ場所で声を上げた元メンバーらを訪ねた。


拡声器を握り、安全保障関連法案反対を訴えた後藤さん=2015年8月、国会前
拡声器を握り、安全保障関連法案反対を訴えた後藤さん=2015年8月、国会前

 冷たい風が吹きすさぶ昨年末、都内のIT企業で働く後藤宏基さん(25)は、大阪市内にある日雇い労働者の街・釜ケ崎にいた。路上生活者を孤立させないための支援活動「越冬闘争」の初日。湯気が立ち上る豚汁を配り終えて一息つき、学生らと談笑する。炊き出しを行う公園には「野宿させるな! 仕事をさせろ!」と横断幕が掲げられている。

 社会人2年目。日々、営業に汗を流し、スーツ姿が似合うようになった。新聞社を志望したがかなわず、利益第一の仕事を「ゲームのような感覚」でこなす。釜ケ崎に足を運ぶのはそんな日常から離れ、「少しでも社会のことを考えて行動できる場所。切っても切り離せないライフスタイルかな」。

 福岡市の西南学院大3年だった15年8月28日、後藤さんは国会前に初めて訪れた。「大勢の人のエネルギーが一つになっている。社会が変わると本気で信じた」。意を決して、ビール箱で作られた演台に立った。左手にマイク、右手には原稿が表示されたスマートフォン。足が小刻みに震える。蒸し風呂のような暑さの中、言葉を紡いだ。

 「九州はアジアの玄関口と言われます。どこに住んでいても法案について真剣に考え、声を上げなければなりません」。朝鮮半島が近い福岡で生まれ育ったからこそ、日朝・日韓友好への思いも交えた。勢いよく語ると、声はかすれ、せき込んだ。

 スピーチは瞬く間にネット掲示板で「炎上」し、誹謗(ひぼう)中傷の的となった。批判は怖かったが、「自分が言わなければという覚悟を持っていた」。

 社会問題に関心を持つきっかけは福岡県立福岡高2年のときだ。ラグビー部員として全国大会に出場し、花園の土を踏んだ。大阪朝鮮高との一戦を前にした円陣では「北朝鮮、倒そうぜ」と士気を高めた。

 無知だったと気づいたのは大学入学後。大阪朝鮮高ラグビー部の戦いを追った記録映画を鑑賞した。描かれていたのは授業料無償化の対象外とされた生徒の悔しさ。「『反日国・北朝鮮』というレッテルを貼って気合を入れるなんて無理解を恥じた」。韓国に短期留学し、福岡県内の在日コリアン集住地区に足を運び続けた。

 ビール箱の上で勇気を振り絞った夏から3年半。「変わる」と信じた社会は変わったか。頻繁に通う大型書店では排外主義をあおる「ヘイト本」が平積みされる。朝鮮半島に強硬姿勢を貫く安倍政権がいまも続くことに嘆きは深い。

 就職を機に単身上京し、友人は少ない。昨年参加したデモには、大学のゼミの先輩に連れられて行った。学生時代を懐かしみ、「仲間がいたからこそできたと思う。今は正直心細く、1人では行動しようと思えない」。

 実名で取材に応じるのも久々だ。「学生の頃は、社会運動への参加を理由に採用しない会社は『こちらからお断りだ』なんて思っていた」。だが、今は違う。政治について積極的に発信することで再び炎上し、会社や取引先に迷惑を掛けないかと不安になる。「学生の時は『大人が何もしないから僕ら学生が行動しなきゃいけない』なんて言っていたけど、今はこの生活を手放すことはできないよ」。申し訳なさげに空を仰ぐ。

 だからこそ、年末の休みを利用して釜ケ崎に足を運び、社会について語り合える仲間と過ごす時間は貴重だ。学生時代に自ら発した言葉との乖離(かいり)にがくぜんとする。それでも、かつてのスピーチを思い出せば背中を押され、もがきながらも伝えようと思える。「あなたの話をしっかり聞いてくれる仲間がきっといるはず。一緒に立ち上がりましょう」

◆意識の種をまく


SEALDs最後の会見で活動を振り返った安部さん=2016年8月、東京都内
SEALDs最後の会見で活動を振り返った安部さん=2016年8月、東京都内

 「自分ができる範囲で、無理をしない。そのスタンスは今も変わらない」。シールズの創設メンバー安部さくらさん(24)は語る。ただ、社会人となった昨春以降、デモには一度も参加していない。

 県内の旅館に勤める。図書館のように本を手に取り、都会の喧噪(けんそう)から離れてゆっくりと読書に没頭できる機会を提供する。そんなコンセプトを掲げる宿だ。毎朝午前5時に起き、仕事に向かう。帰宅は午後10時ごろ。忙しさから「社会に対して疑問に思うことを言葉にできなくなっている気がする」。

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