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検証・黒岩流2期8年(1)
看板政策、異次元の“新潮流”に

政治行政 神奈川新聞  2019年03月05日 05:00

知事が筆書きした「笑」の文字と顔写真が掲載された県のたより元日号
知事が筆書きした「笑」の文字と顔写真が掲載された県のたより元日号

 「じゃあ笑おうか!」

 昨年11月、数人の職員が集まった県庁の知事室。ミュージカル仕込みの“演技”で、出来栄えに納得するまで撮影を繰り返す。のけぞって爆笑する黒岩祐治知事が、元日付「県のたより」の表紙を飾った。

 笑いの総量を2倍にし、みんなが笑ってる社会をつくっていく。1日30秒笑う人が1分間笑えることを政策目標にする-。

 「ふざけてるんじゃないかって思われるかもしれないけど…」。こう自覚しながらも、知事の語り口は真剣だ。1人の笑いが周囲に広がり、地域全体を笑いで包み込む。笑いが健康にもたらす効果を科学的に検証し、人生100歳時代の特効薬とする。

 着眼点は、「幸福度」を国家運営の柱に据えるブータン首脳との晩さん会で共感を得て正しいと確信した。東大の研究チームと共同で取り組み、医学的側面での裏付けを急ぐ。

 「ニコッというスマイルじゃなくて、ぶわーっと笑うんだ」。2期目の最終盤で打ち出した新たなテーマを県の施策に落とし込む準備が進む。

 「最初は、ほとんどの人たちから反対された。そんな言葉分からない、と」

 知事が肝いりで進めてきた「未病」改善の取り組みも、スタート時は県庁内外から懐疑的な視線が向けられていた。だが黒岩県政の代名詞にもなった今は、「革命的なことが起きつつある」レベルに成長したというのだ。

 未病の言葉を知る人は52%に達し、政府の「健康・医療戦略」にも未病の重要性が盛り込まれた。「マイ未病カルテ」は目標の50万人を大幅に上回る119万人が登録し、「未病産業研究会」にはICT(情報通信技術)関連企業など700社近くが参加する。

 「知事が代われば消える施策」との疑念は、未病改善施設「ビオトピア」(大井町)など「自動的に広がっていく装置」をつくり解消。WHO(世界保健機関)との覚書やOECD(経済協力開発機構)の論評での紹介など、「ME-BYO」の世界展開も視野に入れる。

 これまで投入した県費は総額約24億円。知事は「時代の流れにぴったり合った新しい潮流を神奈川から起こした」と胸を張る。

 黒岩知事が一丁目一番地に据えて突き進む「健康長寿延伸」の取り組み。知事就任前のキャスター時代から医療問題に傾注してきた実績も生かし、全国屈指のスピードで高齢化が進む神奈川の青写真を描く。

 そのキーワードに掲げてきた「いのち輝く」は、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)と軌を一にし、2025年大阪万博のテーマに採用されるほど先見性のあるコンセプトと自任している。

 しかし、国の調査で神奈川県民の健康寿命は後退し、がん罹患率の低下や医療費削減といった検証可能な効果は不透明。「笑い」や「未病」の概念には、生活困窮者や寝たきり患者ら「弱者への配慮を欠く」(県議)といった批判がつきまとう。

 「着眼点はいいが、そもそも県が膨大な人材と財源を投入して進めるべきことなのか。一体どこに向かっていくのだろう…」。岡崎洋、松沢成文両知事時代を知る職員は黒岩県政の功罪に首を傾けながら、続ける。「未来の自治体のあるべき姿なのか、違和感を抱く体質が古いのか」



 「やり残したことがある」と4月の知事選への3選出馬を表明した黒岩知事。地方自治の枠を超えた「異次元の県政」とも形容される自治体運営は、次代の主流となり得るのか。2期8年の行政手法と政策の果実を検証する。


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