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【K-Person】甘糟りり子さん
鎌倉で四季を感じ 家とともに人生重ねる

K-Person 神奈川新聞  2019年03月03日 10:45

甘糟りり子さん


甘糟りり子さん
甘糟りり子さん

 どんな家に住むかはその人の生き方が表れる-。江ノ電沿いのとある住宅街、坂道を上がると、多くの文化人に愛されてきたその家がある。

 玄関を背に、向かって左側が昭和初期の別荘だったという数寄屋造りの日本家屋、右側には合掌造りの民家がひっそりとたたずむ。

 「例えてみれば、シルクにレースをあしらったワンピースと革ジャンが一着になっているようなもの」。数寄屋造りの繊細さと、合掌造りの重厚さを兼ね備えた鎌倉の自宅をこう言い表す。

 横浜生まれ、鎌倉育ち。父親は伊勢佐木町(横浜市中区)の米屋に生まれ、本人も3歳まで横浜に暮らした。その後、雑誌の編集者だった父が知人から数寄屋造りの家と土地を買い取り、鎌倉に移り住んだ。隣に合掌造りの家も建て、自宅には作家の向田邦子、デザイナーの植田いつ子ら、文化人が頻繁に集った。


甘糟りり子さん
甘糟りり子さん

 昨秋、自宅での思い出を記した「鎌倉の家」(河出書房新社、1728円)を執筆。知り合いの編集者に「この家でのことを、書いておいた方がいい」と強く勧められキーボードをたたき始めた。

 「古い家なので、夏は暑くて冬は寒いですが、肌で四季を感じる暮らしには満足しています」と語る。6年前に自宅で父を看(み)取り、現在は作家で料理研究家の母(84)と二人で暮らす。

 「室内に飾る花は庭や裏山で摘みます」。タンポポやアシタバなどの野草も裏山で手に入れ、春になると友人らに調理してふるまう。便利で最先端の生活を求めて都心の高層マンションにも住んだが、そこでは幸福を感じることができなかった。夏には自宅近くの湘南の海でサーフィンも楽しめるこの暮らしが、何より大切だ。

 1階の居間の天井=写真=を見上げると、福井県の農家から移築した300年近く前の立派な梁(はり)が目を引く。それぞれの時代の記憶を吸って、飴色(あめいろ)に艶めく梁は、時間を掛けてかけがえのない存在となった。

 「何でも手に入る時代だけれど、だからこそ、長く使えるものを大切に使っていくほうが楽しいですね」。鎌倉の家とともに、これからも人生を重ねていく。

あまかす・りりこ 作家。1964年横浜生まれ、鎌倉育ち。玉川大文学部卒業。「エストロゲン」「逢(あ)えない夜を、数えてみても」「産む、産まない、産めない」「産まなくても、産めなくても」など著書多数。読書会「ヨモウカフェ」を主宰。

記者の一言
 「江ノ電のエッセーもいつか書きたいと思っています」と話す甘糟さん。「鎌倉の家」には、鰻(うなぎ)の名店「つるや」など、地元のグルメも紹介されていて通の情報が参考になる。ご自宅の家具も地元の家具屋を利用し、壊れたら修理に出すなど、物を大切にする暮らしぶりがすてきだった。初めて訪れた場所なのに、ずっと居続けたくなるほど居心地の良い部屋にうっとりした。


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