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“お堅さ”払いファン獲得 地方オケ「つぶやき」人気 

社会 神奈川新聞  2017年07月03日 09:53

記者が手渡された「中の人」の名刺
記者が手渡された「中の人」の名刺

 お堅いイメージが先行することもあるオーケストラ-。「もっと身近に感じてほしい」と、地方オケがツイッターを使ったPRに奔走している。伝統や格式を重んじるオケの近寄りがたいイメージを払拭(ふっしょく)しようと、舞台裏を発信し、新たなファンを獲得。オケらしからぬフランクなつぶやきが今、人気を集めている。
 

舞台裏もフランクに


 記者が、仙台フィルハーモニー管弦楽団の男性職員(25)から受け取った名刺には「中の人」と大きく書かれていた。6月中旬、JR桜木町駅周辺の飲食店に地方オケの関係者が集まった。この集い、名前は「中の人会」という。

 「自費で制作して枚数が限られているので、皆さんにお渡しできないのですが…」。男性は名前や顔を出さず「仙台フィル公式ツイッター」で、「中の人」という名称でつぶやいている人物だ。

 民間企業などのツイッターでは、公式アカウントの「つぶやき」担当者が「中の人」と名乗り、人間味のある「ゆるい」つぶやきで人気を得てきた。この「ゆるさ」を、お堅いイメージのあるオケで初めて取り入れたのが男性だった。


仙台フィルハーモニー管弦楽団の公式ツイッターから
仙台フィルハーモニー管弦楽団の公式ツイッターから


 男性が「中の人」として登場する前、仙台フィルツイッターのフォロワー数は約1300人ほどだった。

 3年前に「中の人」がつぶやきを始めると、その肩肘張らない内容が受け、フォロワー数は漸増。現在約8400人となった。

 「せっかくよい演奏なのに、オケの魅力があまり外に出ていないようで…」

 即時性の面白さがツイッターの特性なのに、公演情報を定期的に流すだけの「機械的な作業で、正直つまらなかった」と振り返る。

 演奏者がどんな練習をしているのか、指揮者がリハーサルの休憩中どんな食事をしているのか、オケの舞台裏を発信し始めた。絵文字も活用したフランクなつぶやきは、ネットで評判を広げていった。

 今では、「『中の人』に届けてください」と、コンサートに差し入れを持ってくるファンや、「中の人」宛ての年賀状も届くようになった。

 演奏者が中心のオケで、「裏方の自分に?」と想像もしなかった出来事だった。男性は「他にも業務を抱えながらのつぶやきなので大変な時もありますが、無駄ではなかった」と笑う。

 同団の演奏事業部・我妻雅崇さん(44)は、「知名度が高い在京のオケは、ブランドイメージが先行して、はじけたツイートはできにくそう。逆に、地域を拠点に活動してきた地方オケだからこそ、型にはまらない『中の人』のツイートが受け入れられたのでは」と分析する。
 

音楽の力、改めて


 オケと聴衆との距離を縮めたいという思いは、東日本大震災がきっかけだった。仙台フィルの団員も被災したが、発生から2週間後には演奏活動を再開し、避難所を回った。

 津波で流された船や車が建物に折り重なり、多くの遺体がまだ弔われていないような状況下での巡業だった。

 避難所では娯楽もなく、気を紛らわすことが少ない。バッハのアリアや唱歌「故郷(ふるさと)」を奏でる。涙を流し、聞き入る被災者。我妻さんはその姿を胸に刻んだ。

 「オケの必要性を実感した出来事でした。震災後しばらくは、原発も不安視されていて他のオケは来られなかった。地方オケだからこそできたことです」

 これまでオケを積極的に聴いたことがなかった人でも、音楽の持つ癒やしの力を身近に感じてもらえた瞬間だった。もっとオケと人々との距離を縮めたいと強く思った。

 そんな折に、後に「中の人」となる男性が入団した。最初は、オケの舞台裏を見せることに抵抗を感じる演奏者もいたが、フォロワー数の増加とともに受け入れられた。
 

神奈川フィルも


 「中の人」という名称ではじまった同団のつぶやきは、神奈川フィルハーモニー管弦楽団も昨年から取り入れ始めた。2010年から公式ツイッターを開設し、公演情報を発信しはじめたが、仙台フィルと同様に「機械的な情報の更新」にとどまっていた。


神奈川フィルハーモニー管弦楽団の公式ツイッター画面
神奈川フィルハーモニー管弦楽団の公式ツイッター画面


 昨年12月から「中の人」が登場すると、3カ月間でフォロワー数が約3千人増えた。現在、フォロワー数約1万1200人に上る。世界的に有名なNHK交響楽団のフォロワー数は約1万4500人。ファン層が厚い主要な在京オケにも引けを取らない人気ぶりだ。

 「中の人」としてつぶやく同団の男性職員(43)は、天気や時事、地元ネタなど、多いときで1日50件以上つぶやく。仙台フィルとツイッター上でやりとりを重ねるなど、お互いのファンがコンサートに行き来するようにもなり、新たな裾野を広げている。「中の人会」も立ち上げ、定期的に集まり情報交換も行うようになった。

 「今まで、地域を越えてオケのPRを考えるような集まりはなかった。『中の人会』をきっかけに、地方オケからクラシック界を盛り上げていければ」と意気込む。

 立ち上げから3回目となる6月の「中の人会」定期会では、五つのプロオーケストラ関係者が集まり、情報交換した。

 参加した我妻さんは「クラシック音楽は、分かる人にだけ分かればいいと、聴衆を遠ざけてきたところがある。伝統を大切にしながらも、肩肘を張らない柔軟な発想でオケの魅力を伝えていきたい」と話した。


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