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日本将棋連盟指導棋士五段、本紙将棋担当記者
将棋のはなし(93)説明できない師匠の存在感

カルチャー 神奈川新聞  2019年02月07日 01:55

【2019年2月3日紙面掲載】

 先日、仕事中に某記者から電話が入った。「急用で今日の取材を代わってほしい」。藤沢市の「佐伯九段将棋サロン」で採譜する約束だという。

 サロンを主宰する佐伯昌優九段(82)は、私の師匠である。奨励会時代は心配をかけ続けた。最近はお会いする機会も少なかったので、心の準備もなく会うことになり、一気に緊張が高まった。

 この心境、師弟制度に身を置いたことのない人には分からないだろう。だから大多数の読者を置き去りに話を進める。

 移動の電車で考えた。まずご無沙汰のおわびをしなくちゃ。今も本紙を購読してくれているだろうか。このコラムを読まれていたらどうしよう。今日は奥さまもいらっしゃるはず、きちんとあいさつしないと。際限なく心配事が浮かんでくる。

 誤解されないように断っておくが、師匠に怒られたことはほとんどなく、いつも静かに見守ってくれていた。でもその存在感は、怖いとか優しいとかそういう次元ではないのだ。やっぱりうまく説明できないな。

 恐る恐るサロンの扉を開けると、旧知の人もいて温かく迎えてくださった。師匠も奥さまも変わらずお元気でうれしかった。大熱戦になった一局は5日から紹介する。

 帰り道では、急だったとはいえ菓子折りすら持たずに伺ってしまったことの是非を自問し、当欄でネタにしてよいかどうかも悩んだ。不惑を迎えたというのに、弟子という立場ではいつまでも惑い続けている。


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