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神奈川と平成・箱根(3)噴火、対応に試行錯誤

経済 神奈川新聞  2019年02月06日 10:06

噴火警戒レベルを2へ引き上げる6日前の大涌谷。火山性地震が活発化していたが、大型連休で多くの観光客が訪れていた=2015年5月4日付本紙掲載
噴火警戒レベルを2へ引き上げる6日前の大涌谷。火山性地震が活発化していたが、大型連休で多くの観光客が訪れていた=2015年5月4日付本紙掲載

 「その日」は突然にやってきた。2015(平成27)年5月6日。気象庁が箱根山の噴火警戒レベルを1(平常=当時、現在は『活火山であることに留意』)から2(火口周辺規制)に引き上げた。箱根町は、県道734号の大涌谷三差路付近の通行止め、箱根ロープウェイの全線運休などを発表した。

 地元住民にとっても寝耳に水だった。確かに、大涌谷の火山活動活発化はその2週間ほど前から始まっており、断続的な火山性地震も続いていた。しかし、そうしたことは数年に一度起こる「いつものこと」であって、あまり気にしていなかった。だからこその驚きだった。「レベルって何」。強羅にある「田むら銀かつ亭」代表取締役で、箱根強羅観光協会専務理事の田村洋一さん(53)の第一印象はそれだった。

 強羅は大涌谷から3キロ近く離れていたが、箱根登山電車の終点駅があるなど、大きな観光エリアとしては一番近くにあった。早急に対策が求められた。

 すぐに地元住民らで勉強会を開いた。この時点では、町に大涌谷の避難マニュアルはあったが、住民の避難計画はなかった。レベル3になった場合の対応や避難方法などを自分たちで考え、決めていった。

 自治会や公共交通機関、宿泊施設、飲食店、学校などで火山防災協議会を設立。情報共有や避難対象エリア、避難場所などについて話し合い、調査を行った。また、県温泉地学研究所(小田原市入生田)などの研究機関とも連携し、火山について教えを受けるとともに、最新情報を得た。

 「風評被害」にも気をもんだ。火山活動が顕著なのは大涌谷周辺だけなのに、箱根全山が危険であるかのように一部で広まった。町は正確な情報発信を期するため、発信元を町に一本化した。箱根強羅観光協会も報道機関の取材に応じないよう、“かん口令”を敷いた。田村さんも「(前年に噴火した)御嶽山のようなイメージを持たれてはまずい」と気にしていた。

 そんな中の6月29日、小規模噴火が発生。翌日には噴火警戒レベルが3(入山規制)に引き上げられ、大涌谷北側の県道が通行止めとなったほか、規制エリア内の住民らが避難した。

 「終わった」と田村さんは思った。だが、これが転機になった。

 これまでの方針を転換し、報道関係者とも積極的に接触。自分たちの考えを発信するとともに、情報交換を行った。国などの最新情報が得られ、先を読んだ一手を考えることができたという。「良いも悪いも隠せない。オープンに付き合い、内容を判断するのは報道の皆さん」という考えに至った。

 まだレベル3だったころ、地元の風物詩である8月の大文字焼きをやるかどうかで紛糾したが、報道関係者の助言もあって実施にこぎ着けた。「万一の対応策はできている。安全をアピールするためにもやりたかった」

 開催を早めに打ち出すと、周辺の観光エリアもまた、祭りの実施を決めた。自治会による防災訓練も住民から反対意見があったが、何でもやっていこうという流れが大きくなっていった。

 火山活動はその後、次第に沈静化。噴火警戒レベルも9月に2へ、11月には1へと引き下げられた。あれだけ減少した観光客も17年には噴火前の水準を回復した。

 混乱の日々が遠ざかり、多くの人たちに日常が戻った今、田村さんが考えているのは2回目の「火山温泉観光サミット」だ。田村さんが実行委員長を務めた第1回は16年3月に箱根で開かれたが、その後は開催されていない。「今後も全国でいつ、どこで噴火があるか分からない。全国の温泉場と連携して、ともに助け合う仕組みをつくりたい」

(2019.1.27掲載、望月 寛之)


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