1. ホーム
  2. 社会
  3. 白球再生、ナインと絆 横浜の障害者施設が桐蔭応援

白球再生、ナインと絆 横浜の障害者施設が桐蔭応援

社会 神奈川新聞  2019年02月04日 01:50

傷んだボールを再生させようと、熱心に作業に打ち込む男性=横浜市青葉区
傷んだボールを再生させようと、熱心に作業に打ち込む男性=横浜市青葉区

 一針一針、白球に思いを込めて-。選抜高校野球大会(3月23日開幕)に2003年以来の出場を決めた桐蔭学園高野球部を、地域の障害者施設が支えている。練習で使い古した硬式ボールを修繕して再利用する「エコボール」。その取り組みでナインをサポートしてきた障害者たちも「自分たちが直したボールで練習してくれて、甲子園にまで出るなんてうれしい」と16年ぶりの大舞台を喜んでいる。

 1月下旬、横浜市青葉区の障害福祉サービス事業所「桃の実」で、知的障害がある男性4人が朝から黙々と作業に励んでいた。赤い縫い糸がほつれ、泥だらけになった野球のボールから、古い糸をはさみで取り除き、新しい糸を一針ずつ丁寧に手縫いしていく。まさに“一球入魂”だ。

 桐蔭学園高OBで同事業所スタッフの布川勇人さん(58)が、2年前の秋から取り入れた作業だ。当時の同校野球部は県大会3回戦で敗れて、指揮官が片桐健一監督(45)に変わったばかり。布川さんは野球部OBではないが、甲子園での優勝経験もある母校の再起を願って「何とか野球部を応援したかった」と、エコボールで支援することを申し出た。

 最初は苦労の連続だった。作業する障害者たちに「なぜボールを縫わなきゃいけないのか」の意味を理解してもらえず、品質にばらつきが出てしまった。「まずは『高校生の役に立つんだよ』ときちんと伝え、技術面は毎日の反復だった」と布川さん。今では「1時間で1球を仕上げる人もいれば、ものすごく時間がかかる人もいる」(布川さん)と個人差はあるものの、事業が軌道に乗り、同事業所・管理責任者の星野和子さん(66)は「皆さん、生き生きと作業している。最近はエコボールを通して、一人一人が仕事にやりがいを得られていると強く感じる」と手応えを得ている。


「桐蔭学園の甲子園出場をみんな自分たちのことのように喜んでいる」と話す布川さん
「桐蔭学園の甲子園出場をみんな自分たちのことのように喜んでいる」と話す布川さん

 エコボール事業は約10年前に、プロ野球・横浜大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)元投手の大門和彦さん(53)が考案したといい、京都のNPO法人が取り組みの先駆けだ。布川さんもその施設を見学し、「作業所内に地域の人たちが集まるカフェがあり、すぐ隣でエコボールをつくっていた。地域にエコボールと障害者が普通に溶け込んでいた」と感銘を受けた。

 布川さんは障害者に対する偏見をなくしたいと訴える。2016年7月には、相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害される事件が起きた。自身も知的障害の子どもがいる布川さんは「エコボール事業を通じて知的障害者との交流が増え、世の中に障害への正しい理解が深まれば」と切に願っている。

 「桃の実」で仕上げたボールは、車で10分ほど離れた桐蔭学園高まで、障害者と共に納品に行く。「一緒に野球部に持っていくことで、本人たちに社会とつながっていることを実感してほしい。選手たちもびっくりして喜んでくれる」と布川さん。作業する酒井恒輔さん(26)は「1年前から始めたが、だいぶうまくなった。このエコボールでもっと強くなって、甲子園で頑張って勝ってほしい」と笑顔でエールを送る。ナインの感謝の言葉こそが、何よりも障害者の人たちの励みになる。

 桐蔭学園高は昨秋の関東大会を24年ぶりに制して甲子園への扉を開いた。作業所では、試合ごとにトーナメント表や翌日の新聞を貼り出し、大盛り上がりだったという。桐蔭学園高の片桐監督は「こうして応援してくれる方々のためにも甲子園で頑張りたい」と話している。


シェアする