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石巻の法人管理者語る
【減災新聞】その時、福祉施設は 独自避難所 機転と課題

減災 神奈川新聞  2019年02月03日 01:21

震災直後の状況を振り返り、被災者支援に奔走した経験を語る鈴木徳和さん=1月26日、横浜市中区の「泰生ポーチ フロント」
震災直後の状況を振り返り、被災者支援に奔走した経験を語る鈴木徳和さん=1月26日、横浜市中区の「泰生ポーチ フロント」

 東日本大震災の津波被災地で、行き場のない障害者や住民の受け入れに当たった福祉施設の経験に学ぶ講演会(主催・認定NPO法人かながわ311ネットワーク)が、横浜であった。語ったのは、宮城県石巻市の社会福祉法人「石巻祥心会」(宍戸義光理事長)の施設管理者、鈴木徳和さん(43)。同法人は独自に「福祉避難所」を開設するとともに一部の施設を避難所として開放し、周辺住民も受け入れた。本来以上の役割を担う中で直面した数々の課題を踏まえ、鈴木さんは訴える。「法人として災害時にどう行動するかを事前に決めておくべきだ。職員も被災者なのだから」

 石巻祥心会は知的障害者のための入所施設や生活介護、就労支援などの事業所を運営。震災では理事2人と出勤途中の職員1人が死亡・行方不明となり、津波に襲われた3棟のグループホームが流失、全壊したが、利用者は別の施設で作業するなどしていたため、無事だった。

 震度6強の激震と大津波襲来後の2011年3月11日夜。どうにか参集できた職員に、理事長が今後の対応方針を説明した。「新しいものをつかむためには、今握っているものを離さないとつかめない。必要な所へ必要なものを」

 その言葉を聞いた鈴木さんは「方針がはっきりと示されたのでその後の判断に生かせた」と振り返る。翌12日、浸水を免れた法人本部の敷地に身を寄せていた住民から、受け入れを求められた時には「理事長の言葉があったので、使えるものは使ってくださいとすぐに答え、解錠することができた」という。

 この法人本部と、建て替えを間近に控えていた入所施設の仮設建物で受け入れた住民は計約150人。このほか震災当日には、鈴木さんが管理者を務める就労支援施設など6事業所を避難所として開放し、利用者や迎えに来た家族ら約180人が急場をしのいだ。

 2日後の3月13日には、入所施設を利用し、独自の判断で福祉避難所を開設。公的な避難所を巡回し。周囲とトラブルになっていたり、「変わった人」と受け止められたりして居づらくなっている障害者や家族に声を掛け、受け入れた。

 市や医療機関からの依頼に加え、口コミもあり、福祉避難所には家族を含め最大で100人ほどが身を寄せた。この間、並行して入所者向けの仮設住宅(40戸)を日本財団の支援で建てる計画も進め、完成後の7月上旬に福祉避難所を閉鎖した。

 一連の対応を振り返り、鈴木さんは「一部の施設にたくさんあったバイオディーゼル燃料(BDF)、受水槽の水や井戸水、飼育していた鶏が産む卵などが役に立った」と説明する。大手製パン会社などの支援を受けつつ、移動入浴車を住民も利用できるようにするなど事業に根ざしたノウハウや特徴を生かし、避難所以外の面でも災後の地域を支え続けた。

 一方で、支える側を担う施設職員のありようを課題に挙げた。「日常業務は介護や相談、就労などに分かれており、それぞれに特化しているが、震災時は支援の必要な人が目の前にたくさんいる。相談担当の職員がおむつ替えを頼まれた時に『経験がないから分からない』では、福祉の専門家としてどうなのか」と問題提起。「さまざまな分野に精通し、引き出しの多い職員にならなければ」と実感を込めた。

 同時に、「震災が起きると、通常の8時間勤務が突然、24時間勤務や48時間勤務になってしまう。職員の間にどうしても温度差が出てくる」とも指摘。仕事なのか、ボランティアか。時間外勤務か、社会的使命なのか-。募る不満から職員の間にしこりや精神的なストレスが残り、辞めていった人もいると明かした。

 苦難の教訓を鈴木さんはかみしめる。「想定される災害の種類やリスクは地域ごとに異なるが、その最大のケースが発生したときに組織としてどう行動するかが問われる。地域を支援するのか、法人や利用者を守り抜くのか、それとも職員や家族を優先するのか。あらかじめ統一した見解がないと、組織がばらばらになりかねない」

犠牲の1割障害者
石巻、逃げ遅れが背景


 2万人を越える死者・行方不明者が出た東日本大震災の津波被災地の中でも、宮城県石巻市は最も被害の激しかった地域だ。災害関連死を含めた死者数は市町村別で最も多い3554人(昨年9月時点)、行方不明者も421人を数え、犠牲になった障害者も多数に上っている。

 同市の浸水面積は73平方キロ。被災地全体では561平方キロに及んだが、その13%を占めた。市内で全壊した住宅は2万棟を超えており、震災前に約16万人を数えた人口は現在、約14万5千人にとどまっている。

 市によると、市内で震災時に障害者手帳を所持していた人は8140人。その5%に当たる397人(2011年9月時点)が犠牲になった。

 石巻祥心会の鈴木徳和さんは横浜での講演でこの点についても触れ、「市内で犠牲になった人の約1割が何らかの障害を持つ人だったということになるが、ほかの地域は大体、2~3%と言われている」と石巻の際立った状況を強調。「沿岸部に公営住宅の多い地域があり、住んでいた障害者が逃げ遅れたことが大きいのではないか」と被害が拡大した背景を指摘した。 

福祉避難所 小中学校の体育館などの一般の避難所では生活に支障がある高齢者や障害者、妊婦、乳幼児、傷病者、難病患者らの「要配慮者」を受け入れる。内閣府が2016年4月に定めた福祉避難所の確保・運営ガイドラインでは、対象者数の把握や避難所となる施設の指定、住民に対する周知徹底、施設管理者と連携したスロープ・手すりの設置や段差の解消などの環境整備を市町村に求めている。東日本大震災時は事前の施設確保が不十分で、熊本地震や西日本豪雨では福祉施設や大学などが独自に障害者らを受け入れたケースがあった。

自助のヒント 12月の地震活動
 気象庁によると、昨年12月に国内で震度3以上を観測した地震は13回あり、このうち震度4は2回あった。神奈川県内で震度1を観測した地震は6回。一方、箱根や丹沢、相模湾、伊豆などで微小な地震も含めて監視している神奈川県温泉地学研究所が独自に震源を決定した地震は70回。このうち最大の地震は、12月9日に足柄平野で発生したマグニチュード(M)2.4の地震で、震源の深さは約12.1キロだった。県内唯一の活火山、箱根山(箱根町)の群発地震は観測されていない。


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