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神奈川と平成・野毛 ここは「本物の場末」

社会 神奈川新聞  2019年01月28日 10:14

ジャズの名曲に乗って盆踊りを楽しむイベント「ジャズde盆踊り」。野毛の街が老若男女の熱気に包まれる=2018年9月22日 
ジャズの名曲に乗って盆踊りを楽しむイベント「ジャズde盆踊り」。野毛の街が老若男女の熱気に包まれる=2018年9月22日 

神奈川と平成・曙町 「ギリシャタウン」が風俗街に

 東急東横線の横浜-桜木町間を走る電車が姿を消した。「紳士(しんし)の社交場」として常連客でにぎわっていた横浜屈指の飲食街・野毛地区は、2004年のこの日から街の様子が一変した。

 「平成」となって間もないバブル崩壊から十数年、次第に客足が戻ってきたころの廃止だった。「バブル経済がはじけた時よりも客が来なくて本当に最悪だった」。野毛のとんかつ店「パリ一」の2代目、田井昌伸さん(63)は首をすくめる。

 横浜・みなとみらい21(MM21)地区や関内地区で働き、東横線の桜木町駅から電車に乗る前に野毛に立ち寄っていた酔客たちの足が遠のいた。みなとみらい(MM)線の開通が追い打ちを掛け、通りは閑散として、家賃が払えずに廃業する店が相次いだ。

 「万里の長城」。東横線横浜-桜木町間の廃線後も残った高架を、そう揶揄(やゆ)する店主もいた。MM21地区と野毛を隔てる厚く、高い壁と見立ててのことだ。

 野毛の名物バー「パパジョン」の2代目、島村研一さん(41)は客の顔ぶれが次第に変わってきた様子を見てきた。「水商売は社会保障がないから休めない」と、年中無休でカウンターに立ち続けた父親の故・秀二さんと一緒に働き始めた頃だった。「若い客がちらほらと来るようになった」

 廃線による深刻な不況を救ったのは、こうした若者たちだった。

 山下町や元町近くで働いていた若いバーテンダーが独立し、野毛の空き店舗にショットバーを開いた。家賃が下がっていたこともあり、あっという間に店が増え、若い客たちが訪れるようになっていた。

 「考えてみれば、『氷河期』はそれほど長くなかった。気が付いたら座っている暇がないほど忙しくなっていた」と、田井さんは振り返る。

酔客を引きつけてやまぬ



 ベテラン店主たちも若者に負けてはいない。田井さんが理事長を務める野毛飲食業協同組合の加盟店がクジラ料理を提供する「野毛くじら横丁」を09年に始めたところ、中高年層にヒットした。多種多様な部位を使ったオリジナル料理が味わえるとあって、テレビの旅番組にも取り上げられた。野毛は戦後の焼け跡にできた闇市から発展し、復興期にクジラ料理を出す店が多かったという。

 連携した取り組みには素地があった。

 野毛最大の危機は、「さんよこ」と親しまれていた三菱重工業横浜造船所が閉鎖され、MM21事業の起工式があった1983年。野毛の住民は3年後の86年に商店街や各町内会と「野毛地区街づくりを考える会」を結成。名称を「野毛地区街づくり会」に変更しながら、イベントを軸にした新たなまちづくりを模索した。その代表格「野毛大道芸」は観客動員数では横浜屈指のイベントに成長。「ジャズde盆踊り」や「野毛ハロウィン」などでは老若男女が集い、にぎわいを増している。

 野毛は新旧の店が混在しながら拡大を続けており、田井さんによると約840店舗まで増えた。若者や女性客がMM21地区から「万里の長城」をさっそうと越えて野毛へと向かう。外国人や県内外からも増えている。田井さんは観光地化を歓迎する。「こだわりの味を安くておいしく多彩な店で楽しめる『大人たちのテーマパーク』として受け入れられているのかな」

 浮き沈みを経て、変わりゆく野毛。しかし、酔客を引きつけてやまない変わらぬ風情を今に伝えるのは常連客の存在だ。

 野毛で飲んで半世紀以上という森直実さん(70)は、常連の先輩たちやマスターから酒の飲み方を教わったという。

 「マスターやママは、カウンセラーの域に達している人が多い。どんな人でも寛容に受け入れてくれる『本物の場末』なんて、今じゃ全国で野毛ぐらいじゃないの」

(2019.1.6掲載、三木 崇)

神奈川と平成・中華街 人をつないだ「親仁善隣」


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