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ヨコハマ映画祭40年  ファンとともに歩む

カルチャー 神奈川新聞  2019年01月24日 04:07

【2019年1月12日紙面掲載】

 映画ファンの手作りで開催されてきた日本映画の祭典「ヨコハマ映画祭」が、2月3日に40回の節目を迎える。映画ファンからだけでなく、作り手側の信頼も厚く、表彰式には必ず監督やスターも駆け付ける。多くの人に愛されてきたその歴史を、写真や関係者のインタビューで振り返る。

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 映画祭が始まったのは1980年。横浜に住む映画ファンが、スポンサーを募らず自ら企画した。運営も仲間内で手掛け、入場料とパンフレットの販売だけで運営費を賄う“手作り感”が、イベントの特色だ。

 既存の権威ある映画祭と異なり、同映画祭は評論家だけでなく映画好きの一般人も選考委員に名を連ねてきた。第13回と18回に作品賞を受賞した北野武監督は「こんなに公平な賞はない」と、映画祭の本質を言い表して受賞を喜んだ。

名優が続々来場


 映画祭は、横浜市鶴見区の京浜映画劇場(閉館)で始まった。第2回の後に同館は閉館してしまい、以降の会場探しが難航した。

 そんな中、ようやく決まった第3回会場の横浜市民ホール(現・関内ホール)に、映画の撮影で欠席と思われていた俳優の故高倉健さんが、急きょ駆け付けるサプライズがあった。「ファンが選んでくれた賞だから…。ハマの空気がどうしても吸いたくなって」
 このせりふは名言として、映画祭関係者の心に残る。「健さんが来た映画祭」-。そう業界で知れ渡ると、以降続々と名優たちが映画祭に姿を現すようになった。

若手の登竜門に


 次代を担う才能をいち早く発見し、若手監督や役者に新人賞を与えるのも、同映画祭の特徴だ。白石和彌(かずや)、中野量太、松永大司らの監督をはじめ、近年は、村上虹郎(にじろう)さん、岸井ゆきのさん、石橋静河さんらが新人賞に選ばれるなど、注目の若手俳優らも数多く発掘してきた。

愛があるからこそ
北見秋満実行委員長


 学生時代にヨコハマ映画祭の誕生に関わり、以来、実行委員として同映画祭の運営をずっと陰で支えてきた。「40回は奇跡に近いと思う」。会場探しや資金繰りなど、多くの困難を乗り越えたからこそ、40という数字には重みを感じている。

 ファンとして仕事帰りに映画館に足を運び、年間100本以上の作品を自腹で見ている。その“映画愛”は、表彰状の文言にも表れている。

 「以下同文なんてつまらない」。受賞者一人一人の作品と向き合い、どこが心に響いたのかを真摯(しんし)に書くスタイルは、受賞者にも好評だ。「表彰状を役者さんたちが見合わせて喜んでいたり、『面白いよね』といった感想をもらったりすると、本当にうれしいです」と目を輝かせる。

 この40年で心に残るのは、昨年亡くなった樹木希林さんとの出会いだ。樹木さんが映画祭で賞をもらったのは、第26回のヨコハマ映画祭が初めて。「『ちょい役で賞をもらうなんて』と当時は言っていたけれど、希林さんはテレビから映画に本腰を入れる過渡期だった。ヨコハマで賞をもらったことがきっかけで、そこからもうどんどん主演女優賞に輝くほど活躍が目覚ましくなった」と胸を張る。

 樹木さんがヨコハマ映画祭のトロフィーをランプに改造するほど気に入ってくれたことも、うれしかった。

 「みなさん家族みたいなもの。今日は楽しくやりましょう」-。映画祭の冒頭、いつも会場にはこう呼び掛けてきた。

 「手作りだけど、大きなトラブルもなくできるのは、観客もスタッフも受賞者も、みんな会場に集う人に共通するのは、映画に愛があるから。そういう核心をこれからも大切にしていきたい」。映画ファンが育てきた“愛”が、ヨコハマには息づいている。

フェアな関係が好き
阪本順治監督


 「40年ぶれないで、同じ方針で運営してきた映画祭に『おめでとう』と言いたいです」

 「どついたるねん」「トカレフ」「顔」「大鹿村騒動記」で作品賞、監督賞などを受賞した阪本順治監督は横浜国大の学生時代、第2回にスタッフとして関わった。

 裏方だったが、受賞者の松田優作さんの控室に入り、こっそりと自主映画の企画書を手渡したこともある。「優作さんは『ご連絡先は書いてありますか』と言ってくれましたよ」と苦笑い。「後で、叱られましたけどね」と懐かしむ。

 表彰式には松田さんをはじめ、鈴木清順監督ら憧れの映画人らが登場し、彼らを前に「早くあちら側に行きたい」と気持ちが熱くなった。今振り返ると、ヨコハマ映画祭が、映画監督を目指す自分の背中を押してくれた。

 監督として、地方の多くの映画祭が運営に行き詰まり、幕を閉じたのを見てきた。「千人規模のホールで100人しかお客さんが入らなくても、夜のパーティーには役者さんを目当てに300人くらいの主催者側の関係者が来たりね、当初の目的とずれてしまうと映画祭もうまくいかなくなってしまうんです」

 そんな光景を見てきたからこそ、「ヨコハマのブレなさ」に賛辞を贈る。

 「映画祭は、観客、主催者、作り手がフェアな関係であることが一番。ヨコハマのフェアな空気感が好きです」と笑顔を見せた。



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