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日本将棋連盟指導棋士五段、本紙将棋担当記者
将棋のはなし(91)将棋界で学んだ処世術?

カルチャー 神奈川新聞  2019年01月24日 04:02

【2019年1月20日紙面掲載】

 2年ほど前まで歌俳柳の面を担当していた。自他共に認める将棋バカなので、短歌も俳句も川柳も何が何だか分からず、迷走する日々が続いた。唯一、力を発揮できたのが、選者の先生方を慰労する食事会だった。

 中学2年で将棋の世界に入り、一般的な上下関係だけでなく、師弟制度という独特な文化の中で育った。宴席での作法も師匠や兄弟子など先輩の背中を見て覚えてきた。

 例えば先生にビールをつぐ時、さりげなく対面する文化部員のグラスも満たす。すると決まって言われた。「俺のことはいいから構わないで」。

 私はいつも心の中で反発した。「部員に気を使っているんじゃない。あんたのグラスが空だと先生に気を使わせてしまうから注いだんだよ」。

 間違ってはいないと思うが、心の声は言葉遣いが悪くていけない。

 先日、歌壇選者の武田弘之先生とゆっくりお話しする機会があった。「将棋ブームはすごいね」などと振ってくれるので、調子に乗ってべらべらしゃべってしまった。

 本来ならこちらから短歌の話に持ち込むべきかもしれない。でも安っぽいメッキはすぐ剝げる。長く担当したとは思えない無知が露呈するだけだ。私は自分に自信がないことに関して絶対の自信を持っているので、そんなへまはしない。

 これも将棋界で学んだ処世術かな? いや、しっかり短歌を勉強するという選択肢もあったはずだから、単に怠け者なだけである。


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