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大岡川・水上バイク問題(上) 排除でなく共生探る

社会 神奈川新聞  2017年06月26日 10:20

検証実験で、水上バイクの引き波を受けバランスを失うSUP愛好家 =2日、大岡川
検証実験で、水上バイクの引き波を受けバランスを失うSUP愛好家 =2日、大岡川

 東京湾から進入した水上バイクが危険な暴走行為を繰り返したことで社会問題となった横浜・大岡川。水上バイクを排除するのではなく、安全航行やマナーを守る利用者を優遇することで水上スポーツ愛好家らと共存を目指す試みが始まった。「市内中心部を流れる大岡川をあらゆる船でにぎわう場所として根付かせたい」。地域住民らの切なる思いを受け、行政機関も規制強化に動きだした。

 横浜港に近く、河口にはみなとみらい21(MM21)地区の高層ビル群が見渡せる。大都会の中で自然が楽しめるとあって、4年ほど前からカヌーやスタンドアップパドルボート(SUP)など非動力船が盛んになり、横浜市中区の親水施設「川の駅 大岡川桜桟橋」を拠点に活動が広がってきた。川沿いの桜並木が開花する花見シーズンは屋形船やプレジャーボートも往来し、にぎわいを増す。

 水上バイクが現れ始めたのは2年前。花見客でにぎわう今年4月2日には猛スピードで数台が連なって暴走し、SUPやカヌーなどの利用者がいる桜桟橋前でUターンやスラロームを繰り広げた。危険な行為は報道やインターネットで紹介され、批判の声が上がっていた。

 大岡川は原則航行が自由で水上バイクには速度制限はない。しかし、川幅が狭い上にカーブが多くて見通しが悪いだけでなく、多くの橋が架かり、点々と並ぶ橋脚が死角を生んでいると指摘されている。

 

引き波 

 
 「猛スピードで走行すると、船舶事故がいつ発生してもおかしくない」

 水上スポーツ愛好家らが危機感を募らせる中、地元町内会をはじめ、河川利用者らでつくる一般社団法人大岡川川の駅運営委員会(伊藤哲夫理事長)では、水上バイクに対してルールの徹底を求めることにした。

 川の駅運営委員会は今月2日、大岡川で水上バイクを走らせ、適正速度を探る検証実験を初めて開催。河川利用者が守るべき自主的な「安全航行ルール」に盛り込む適正速度を調べるためだ。

 実験では、今春に繰り広げられた暴走行為を再現するため、2台の水上バイクが高速でスラローム走行。桜桟橋の近くで浮いているSUPやカヌーなどの非動力船のそばを走り抜けることで、利用者に与える影響を確認した。

 水上バイクが時速15キロほどの高速で走ると、大きな白い波が船尾から末広がりに発生する。「引き波」と呼ばれるもので、両岸の護岸に当たって反射を繰り返すことで複雑なうねりを生み出していた。

 高速でスラローム走行をした水上バイクとすれ違ったSUPは、しばらくバランスを取ろうとしていたが、次第に大きな波がさまざまな角度から押し寄せ、愛好家たちは叫び声を上げて落水した。

 引き波は想像よりもかなり遅れてやってきた。SUPを通り過ぎ、しばらく後に引き波で落水させていたことは、水上バイクの利用者ですら全く知らなかった。


 

最徐行 

 
 今回の実験に協力した水上バイクの販売店などでつくる団体「東京港・湾・河川 水上オートバイ安全航行推進プロジェクト」(TPSP)の長谷川辰事務局長は、引き波がもたらす影響の大きさに驚いた。

 大岡川は川幅が狭く護岸が垂直に切り立っているため、引き波の影響が長時間続くことも分かった。「SUPの横を通過したときには倒れない。だから大丈夫と水上バイク側は誤解していた」と長谷川さん。今回の実験を基にTPSP会員に引き波への注意を呼び掛けることを決めた。

 一方、実験に参加した横浜SUP倶楽部の柿澤寛代表は「水上バイクが時速15キロでSUPの横を抜けた後、引き波の大きさに恐怖心が出た」。しかし長谷川さんから、「時速100キロを出せる水上バイクでは、時速15キロで徐行だと思っている人がたくさんいる」と聞き、びっくりした。

 護岸がない川や海での徐行速度としてTPSPが推奨している時速8キロでも大岡川では引き波が発生し、護岸に反射した波も混ざり合い複雑な波が長時間続いた。マリーナ内などの最徐行である時速5キロでも小規模ながら引き波が起きた。

 SUP愛好家を落水させた引き波を目の当たりにした長谷川さんは「安全航行ルールとして適正速度を決めるのは川の駅運営委の判断」と前置きした上で「非動力船に配慮しないといけない大岡川では、一律時速5キロとした目黒川よりも速度を落とすこともありうる」と考える。

 川の駅運営委では実験結果を受けて、SUPなどが利用する桜桟橋前は時速3キロ、それ以外の場所は時速5キロなどと検討を始めた。水上バイクはジェット水流の推進構造上、低速走行が難しく、時速5キロ以下が出せない機種もあることから「非動力船の付近は最徐行での航行が適切」などの表現で検討を進め、7月中にも安全航行ルールに盛り込む方針だ。

 

ビブス 

 
 TPSPでは、独自の安全講習を受講した会員約2500人に水上バイク運転時のビブス着用を義務付けている。川の駅運営委は、このビブスを着用している利用者に限り、動力船の専用施設である横浜日ノ出桟橋を利用できる方向で調整を進めている。

 長谷川さんは「この桟橋に係留できれば横浜での行動範囲が格段に広がる。TPSPの会員になることのメリットを訴えることで会員を増やすとともに、暴走バイクを減らしていきたい」と期待する。

 川の駅運営委は県や市とともに、桜桟橋と横浜日ノ出桟橋の2カ所ある親水施設を軸とした地域のにぎわい創出を重視してきた。

 親水施設は、2005年に黄金町一帯の違法風俗店の取り締まり運動「バイバイ作戦」の後、新たな街の再活性化の一環として県が整備した。災害時に役立つことが期待される「Eボート」体験乗船など地域団体が川を通したイベントを催してきた。

 今後は水上バイクも地域活動に加わる。10月下旬に開かれる「大岡川運河パレード」では水上バイクが初めて参加することが決まった。大岡川を楽しむ仲間の一員として、自主的に決めた安全航行ルールを守ることをアピールする考えだ。


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