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わが家がなくなる 社会福祉法人破産、無念のホーム入所者

社会 神奈川新聞  2018年12月30日 05:10

職員手作りのクリスマス飾りに彩られたリビングで別れの時を待つ入所者(左)と職員=二宮町川匂のグループホーム「かわわの家」
職員手作りのクリスマス飾りに彩られたリビングで別れの時を待つ入所者(左)と職員=二宮町川匂のグループホーム「かわわの家」

 大磯、二宮両町で高齢者介護施設などを運営する社会福祉法人「大磯恒道会」(大磯町)が12月、東京地裁に破産を申し立てた。帝国データバンクによると、負債額は6億4400万円。別法人が事業を継承することとなったが、両町の2事業所は休止する方針だ。このうちグループホーム「かわわの家」(二宮町川匂)では年内の休止に向け、入所者の他施設への移動が慌ただしく進んでいた。「わが家がなくなる」-。入所者や家族、職員たちは無念の思いを抱えたまま、年越しを迎えようとしている。

 12月24日、冷え切った朝だった。クリスマスツリーが飾られた「かわわの家」のリビング。この日限りで施設を退去する入所者の遠藤純子さん(89)=仮名=に、職員の山西志保さん=仮名=が寄り添って、語りかけた。

 「この家は古いから工事をするの。ちょっとの間の引っ越しだから。私たちも後から必ず行くからね。大丈夫だよ」

 心配をかけまいとする精いっぱいのうそだった。認知症がある遠藤さんは外に運び出される衣装ケースやクリスマスツリーを見ながら動揺した様子を見せる。

 「不安だよね。私も不安だよ」

 山西さんはぽつりとつぶやいた。

「家がなくなった」


 破産の知らせから間もなく、施設を年内で休止させることが法人から伝えられた。11月に14人いた入所者は受け入れ先が決まった順に施設を去り、遠藤さんも同町内の特別養護老人ホームへの移動となった。

 「ここが終(つい)のすみかと思っていたのに」と憤るのは遠藤さんの長女・伸代さん=仮名。遠藤さんは3年ほど前から認知症の症状が進み、家族が受け入れ先の施設を探したものの、満床などを理由に断られることもあった。

 最終的にかわわの家に決めたのはアットホームな雰囲気に引かれたからだ。小さな平屋建てに、リビングから直接、庭に出ることができる間取り。料理も裁縫もできる。「母は庭いじりも家事も好きな人だったから」。そんな環境だからこそ家族の最後の時間を託すことができたはずだった。

 入所して1年半がたってからの退去の通告。「母は物ではない。特別養護老人ホームでこれまでのようなきめ細かいサポートが受けられるかどうか」と伸代さんは不安を募らす。別の職員も「認知症には環境の変化が一番良くない。健康状態にも影響がなければいいが」と懸念する。

 最後に残った入所者の女性も27日に移動を終えた。「職員も入所者もみんな家族のような場所。その家があっという間に全部なくなってしまった。今は喪失感しかない」。閑散としたリビングを見つめる山西さんは、使命感だけで乗り越えてきたここ数年の苦悩を振り返り、声を詰まらせた。

「もう食材買えない」…現場悲鳴


 「法人から食材費が入金されません。出納帳の残高は370円です。もう何も食材を買うことができません。手持ちを見ても2日持つかどうかの状態です」


休止が決まったグループホーム「かわわの家」。廊下には職員の手作りで長寿を祝う張り紙も=二宮町川匂
休止が決まったグループホーム「かわわの家」。廊下には職員の手作りで長寿を祝う張り紙も=二宮町川匂

 社会福祉法人「大磯恒道会」(大磯町)が破産する1年半前の2017年6月、グループホーム「かわわの家」(二宮町川匂)の職員はすがるような思いで県にメールを送った。入所者から月約3万円が食材費として法人に入金され、法人から施設に月30万円が送金される仕組みだった。

 だが昨年3月以降、送金は滞り、1円も送金されない月もあった。職員が自宅から食材を持ち寄り、窮状を聞いた地元の農家が野菜などを恵んでくれたこともある。それでも足りない分は職員が運営資金を立て替える状態が3カ月ほど続いた。「ぎりぎりの状態で何とかやりくりした。入所者の食事のことを法人はどれだけ考えていたのか」と職員の1人は憤る。

 法人の経営難は職員の生活にも影響。昨年8月に福祉医療機構の退職金共済の掛け金が支払えずに契約が解除。一部の職員には退職金が支払われない可能性もある。自らの生活もあるが、「入所者を見放して辞めるわけにいかない」と職員たちの苦悩は続いた。

行政は後手に


 1973年、地元の篤志家によって設立された恒道会は長らく地域の福祉を支える大きな存在だった。しかし、2013年にある男性が理事長に就任したことで歯車が狂い始めた。

 複数の関係者の話を総合すると、県が「福祉に造詣が深い」として、不動産業を営むこの男性を理事に推薦し、その後すぐに理事長に就任した。

 男性は役員報酬を引き上げる一方、現場には強引な人事異動を課した。ある幹部職員は監視カメラ付きのアパートの1室に「分室」として異動を命じられ、現場から隔離、その後に出勤停止とされた。

 15年にはベテラン職員を中心に約80人が相次いで離職。12年には全職員のうち3割だった非常勤、パート職員を17年には5割に増やし穴埋めを図ったが、現場の混乱は深まった。

 行政の対応は後手に回り続けた。17年7月、県が社会福祉法人法に基づき男性に解職勧告を行った時にはすでに立て直すこともできないほど法人の負債は膨らんでいた。男性は同年12月に辞職した。「前理事長を呼んだのも県。県がもっと早い時期から強い対応をしていればこんな事態にもならなかった」。職員の1人は行政の責任を口にする。

 県は「国から紹介された人物を伝えただけ。法人に対してできる限りの指導はしてきた」と説明。恒道会と保全管理人は神奈川新聞社の取材に「何も話すことはない」としている。

淘汰が進む事業者

 介護業界では新規参入が相次ぐ一方で、介護報酬の引き下げや人材不足などから事業者の倒産が相次ぐ。帝国データバンクによると06年には全国で7件だった倒産件数も17年には過去2番目に多い88件、負債総額では過去最多の129億円に上った。事業歴の浅い零細企業が中心で、業界内の淘汰(とうた)が進む。県内での倒産は17年は5件、負債総額は16億円となっている。

 かわわの家の施設管理者の女性が言う。「経営者が代わったからといって傾くような施設であってはいけない。国全体で数十年先を見据えた福祉政策を考えてほしい」。新たな法人での再出発が希望あるものになることを望んでいる。


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