1. ホーム
  2. 時代の正体
  3. 時代の正体〈486〉首相改憲提案を問う(下) 嘘上塗りする邪な動機

時代の正体〈486〉首相改憲提案を問う(下) 嘘上塗りする邪な動機

時代の正体 神奈川新聞  2017年06月20日 12:00

くらもち・りんたろう 東京都出身。2005年慶大卒、08年中央大法科大学院卒、12年弁護士登録、横浜弁護士会に所属。14年から第二東京弁護士会
くらもち・りんたろう 東京都出身。2005年慶大卒、08年中央大法科大学院卒、12年弁護士登録、横浜弁護士会に所属。14年から第二東京弁護士会

【時代の正体取材班=田崎 基】憲法施行70年の節目となる5月3日に右派組織の集会に向けたビデオメッセージで自身の改憲案を披歴した安倍晋三首相。最大の焦点は9条だ。だがその提案の内実は、国際社会や安全保障環境の変化から生まれている「9条」の本質的問題から目をそらしている。こう指摘する倉持麟太郎弁護士は立論そのものに国民への欺きを嗅ぎ取る。重ねてきた嘘(うそ)を上塗りする邪(よこしま)な改憲に他ならない。


 憲法9条について安倍首相は「1項2項を残して『自衛隊』を明記する」という改憲内容を提案した。自民党が来年1月の通常国会へ提出する方針の改憲案でも「自衛隊明記」を検討項目としている。

 だが、9条の本質的問題とは、その2項で、日本には「交戦権がない」と規定している点だ。

 現在の政府解釈は「それでも個別的自衛権は行使できる」と言い、わが国に飛んできたミサイルを撃ち落とせるとしている。だが国際社会や国際法における常識として他国が自国へ発射したミサイルを撃ち落とせば、これは「交戦」に当たる。この矛盾をどう解決するのか。そこに中核的問題があったはずだ。

 交戦権がないにもかからわらず屈折した解釈を重ねてきた結果、例えば南スーダンへの国連平和維持活動(PKO)派遣で、現地で発生した「戦闘」を「衝突」と言い張ってきたわけだ。これは、人の物を盗んでおいて「窃盗」という刑法に触れるから「借りてきた」と言っているのと変わらない極めて欺瞞(ぎまん)的な説明だ。

 従って、交戦権を認めない限り、いかに「自衛隊」と憲法に明記したとしても問題はなんら解決しない。

法的意味は皆無


 指摘しておきたいのは、PKOの性格がこの10年で変化してきたという点だ。単なる平和維持活動ではなく、国連の名の下で武力行使もする「交戦主体」になってきている。

 武力行使ができない日本としては避けがたい矛盾がここにある。しかしPKO派遣先は非戦闘地域などといった解釈という名の嘘でなんとか乗り切ってきた。これまでの議論の積み上げや政府自体がつき続けてきた嘘さえも全て無視し、「自衛隊を明記するだけ」というのは法的意味がまるでない。

 従って、安倍首相による改憲提案の最も大きな欠陥は、これまで9条と自衛隊の関係についてつき続けてきた嘘を、固定化するということにある。なんの解決にもならないだけでなく、さらに「私たちは嘘をつき続けます」という許されざる意思表示になってしまう。

 仮にPKO派遣先で南スーダンのような「戦闘」が起きても、依然として「衝突です」と言い続けなければならないだろう。政府としては憲法違反と認めるわけにはいかないからだ。

 だから個別的自衛権の行使として、あるいは国際貢献と称して自衛隊が撃った銃弾の法的位置付けは、どうやっても「交戦」にならない。例えば、PKO派遣先で、銃を構える相手が「国または国に準ずる組織」に属していれば、自衛隊の発砲は自衛であっても武力行使となり、違憲となってしまう。にもかからわず、混乱した紛争地で、相手が「国または国に準ずる組織」に属しているかどうか、といった非現実的な判断を現場の自衛官らに課し続けている。今回の改憲提案では、この矛盾が解消されない。

 また、安全保障関連法に基づき5月1日から始まった自衛隊による「米艦防護」ですら、9条2項の縛りから組織的武力攻撃はできないため、武器使用の主語は「自衛官」個人であり、自衛官は個人のステータス(立場)および責任で武器を使用することになる。このような政府の嘘のしわ寄せを自衛官個人に帰してよいのだろうか。

 こうした国民を欺くような理屈に対し、保守や改憲派と自称する者こそが怒るべきだ。

欲望先行の疑念


 だが、なぜ安倍首相はこうした提案をしたのだろうか。

 根底にあるのは「自衛隊は国民の間で十分浸透しているからコンセンサス(合意)が得られやすい改憲内容である」ということに過ぎないのではないか。

 本当に自衛隊員の胸の中や誇り、信頼について思い至っているのであれば、憲法上も交戦権を認め、国際社会からも認められる形で軍隊と位置付けるとともに「自衛隊」と明記しなければならない。

 ほかにも、軍法会議の設置やシビリアンコントロール(文民統制)など、9条以外にも司法や立法、行政といった統治機構の憲法規定にも踏み込まなければ全く整合性が取れない。


くらもち・りんたろう 東京都出身。2005年慶大卒、08年中央大法科大学院卒、12年弁護士登録、横浜弁護士会に所属。14年から第二東京弁護士会
くらもち・りんたろう 東京都出身。2005年慶大卒、08年中央大法科大学院卒、12年弁護士登録、横浜弁護士会に所属。14年から第二東京弁護士会

 そうした明白なことから目をそらしている。きっと嘘を積み重ねること自体に、迷いや違和感、呵責(かしゃく)がないのだろう。

 このように考えてみると、自衛隊の最高指揮官である安倍首相は、自衛隊のことなど真剣に考えていないのではないか。自身の胸にある「憲法を変えてみたい」という欲望が先行しているだけなのではないか、という想像したくもない疑念が際立ってくる。

思い寄せる必要


 安倍首相による「自衛隊明記提案」はあまりにも突拍子もないものだが、一方で、

この記事は有料会員限定です。

月額980円で有料記事読み放題/100円で24時間読み放題のコースも。詳しくはこちら


シェアする