1. ホーム
  2. 時代の正体
  3. 時代の正体〈482〉なぜいま教育勅語(上)政治圧力で復活の恐れ

時代の正体〈482〉なぜいま教育勅語(上)政治圧力で復活の恐れ

時代の正体 神奈川新聞  2017年06月16日 11:37

ひろた・てるゆき 1959年生まれ。専門は教育社会学。著書に「陸軍将校の教育社会史 立身出世と天皇制」(世織書房)、「《愛国心》のゆくえ 教育基本法改正という問題」(世織書房)、「日本人のしつけは衰退したか 『教育する家族』のゆくえ」(講談社現代新書)など
ひろた・てるゆき 1959年生まれ。専門は教育社会学。著書に「陸軍将校の教育社会史 立身出世と天皇制」(世織書房)、「《愛国心》のゆくえ 教育基本法改正という問題」(世織書房)、「日本人のしつけは衰退したか 『教育する家族』のゆくえ」(講談社現代新書)など

【時代の正体取材班=成田 洋樹】戦時中の軍国主義を支えた教育勅語の復活への地ならしなのか。国民主権の憲法とは相いれないにもかかわらず、安倍晋三政権は教育現場での使用を明確に否定しない。森友学園問題に端を発した一連の動きの背景には何があるのか。日本教育学会会長の広田照幸・日大教授に聞いた。

文科省の忖度か


 安倍首相は当初、園児たちが教育勅語を暗唱していた森友学園の教育を高く評価していた。率直に言って、教育勅語の暗唱なんて時代錯誤だ。安倍政権はしきりに教育の「再生」という言葉を使ってきたが、国民を総動員した昭和戦中期の教育に戻そうとするような教育観は、受け入れ難い。

 さらに問題なのは、その後の政権の対応だ。閣議決定では、「我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切であると考えているが、憲法や教育基本法(教基法)に反しないような形で教材として用いることまでは否定されることではない」との見解を示した。また、義家弘介・文部科学副大臣は幼稚園などでの教育勅語の暗唱について「教基法に反しない限り問題ない」と国会で答弁した。文科省も、あいまいな姿勢にとどまっている。

 文科省のこの姿勢は、教育勅語に肯定的な自民党文教族議員の意向に押し切られたか、あるいは官僚の側が忖度(そんたく)した結果なのではないかと疑われる。

 これらの閣議決定や答弁などの問題点は何か。

 教育勅語の本質は、天皇家中心の歴史像と天皇主権の社会像を示した上で、天皇と国のために命をささげることを命じている点にある。「憲法や教基法に反しない形」というが、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を基本理念とする憲法とは相いれない。歴史の授業で戦前を批判的に捉えるための史料としてしか使えないのは明らかだ。

 閣議決定などは、憲法公布前の1946年10月に出された文部省の通(つう)牒(ちょう)(通知)が下敷きにされている。しかし、学校現場からの教育勅語の排除や失効を確認した48年6月の衆参両院決議こそが重要だ。参院における失効確認決議では、憲法と教基法の制定によって、「教育勅語は〈中略〉既に廃止せられその効力を失っている」と明言されている。憲法・教基法と教育勅語は並び立たないのである。

意図せざる影響


 教育勅語の中には現代でも大切な徳目が含まれると言う政治家もいる。稲田朋美防衛相は3月の参院予算委員会で「親孝行や友達を大切にするといった核の部分は今も大切だ。核の部分は取り戻すべきだ」と答弁した。

 だが、この考え方には問題点が二つある。

 仮に道徳の授業で教育勅語の一部だけを教えたとしても、問題のある部分も一緒に子どもたちの目の前に出される。教える側が意図していないにもかかわらず、「天皇と国のために命を尽くせ」という道徳的メッセージが学ばれてしまうことになりかねない。教育社会学で言うところの「隠れたカリキュラム」の悪影響を考えなければならない。

 そもそも教育とは、教材を手掛かりに自分で物事を判断できる人を育てるということだ。道徳的な価値観を身に付ける際も、頭ごなしに「これは正しい」と徳目を押し付けるのでは、自律した人間を育てることにならない。教育勅語を使わずに親子関係や友人関係などを考えさせることはいくらだってできるはずだ。そのほうが深い学びもできる。

 また、閣議決定では、憲法に反する使い方かどうかの判断や不適切使用時の対応について、学校の設置者である自治体や学校法人の判断に委ねるとしている。教育内容の是非をむやみに国が判断しないということだろう。それは確かに一つの考え方だが、自治体や学校法人がきちんとした判断基準を持つのかが心配だ。授業で使うことを容認する事例が出てきたら、現場に混乱をもたらしかねない。教育勅語を巡る政権の対応は、戦前の天皇中心の皇国史観、天皇に臣民が従属するという社会観、徳目の押し付けを政治的な圧力で復活させようとする動きだ。自民党が2012年にまとめた改憲草案の前文には「天皇を戴(いただ)く国家」という文言があり、同じ発想と言える。

改正教基法の影



 教育勅語を教育の中に復活させようとする政治家の関心は、「徳目をもっと教え込みたい」という欲望である。06年の第1次安倍政権下で改正された教基法にも第2条(教育の目標)で、当時焦点となった愛国心だけでなく、道徳心や公共の精神といったさまざまな徳目が新たに盛り込まれた。

 教基法改正の玉突きで学校教育法も改正され、さらに新たな学習指導要領がつくられた。道徳教科化に伴う教科書検定でパン屋の記述が和菓子屋に変わったのは記憶に新しいが、根っこには改正教基法の愛国心条項がある。

 自民党が議員立法での成立を目指す家庭教育支援法案も、改正教基法に盛り込まれた「家庭教育」(第10条)の延長上にある。法案では国や自治体の家庭教育支援策への協力を地域住民らに求めているが、家庭教育への無限定な介入が生じる恐れがある。改正教基法が施行されて10年余りたっているが、じわじわと教育現場に影響をもたらしている。

 道徳の教科化は小学校で18年度から、中学校で19年度からそれぞれ始まる。これまで道徳の副読本は使用義務がなかったが、教科化で教科書の使用が義務付けられる。授業内容については教諭の裁量にある程度任されていたが、教科化によって決まった枠の中での授業が求められる。文科省は今のところ「考える道徳」として、特定の価値観を押し付けるような授業を求めてはない。だが、いじめ自殺事件などを契機に「道徳が徹底されていない」などと政治家が介入を強めたり、メディアが同調して世間の不安感をあおったりしたら、徳目をしっかり学ばせようという流れになる恐れは十分にある。

 総じて、教育目標や教育内容に対する政治家からの影響が強まっている。これも教基法改正の影響が作用している。

この記事は有料会員限定です。

月額980円で有料記事読み放題/100円で24時間読み放題のコースも。詳しくはこちら


シェアする

編集部のおすすめ

アクセスランキング

  1. 40代男性がはしかに感染 横浜

  2. 伊勢丹相模原店跡、複合ビル建設を検討 野村不と売買交渉

  3. ロマンスカー車内でわいせつな行為・小田急車掌を逮捕/神奈川

  4. 横須賀市内で5900軒停電

  5. 横浜高島屋が開店60周年 鳩サブレー缶など限定販売

  6. 動画 はっけよい…ぎゃー! 比々多神社で泣き相撲

  7. 稲村ケ崎海岸の沖合に女性遺体 鎌倉署が身元など捜査

  8. 閉店セール、開店前に行列も 伊勢丹相模原店

  9. 【写真特集】台風15号の被害状況

  10. 保育園埋設の放射性汚染土問題 横浜市が保護者に相談会