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壁をこわす(8)注目の「介護奨学生」制度 多分野の目標に活用

社会 神奈川新聞  2017年06月06日 12:03

ミライ塾を運営する奥平さん=東京都内
ミライ塾を運営する奥平さん=東京都内

 介護関連の仕事で大学や専門学校の学費を賄う「介護奨学生」制度がじわりと注目を集めている。「学費を稼ぐだけでなく、超高齢化社会の中で活躍する人材を育てたい」と新聞奨学生の経験がある男性が起業。2015年春から「ミライ塾」の名称で学生を受け入れ、介護事業者との仲介役を果たす。初年度は1人だった奨学生は現在11人。評判を聞きつけた高校生らからの資料請求は本年度は200件を超える。目指す本業に加え、介護のスキルも身に付けて自身の付加価値を高めたいという若者を中心に、着実に浸透し始めている。

 「夢を実現するためにも、高齢者介護の現場経験は絶対に役立つはず」。ホスピタリティツーリズム専門学校(東京都中野区)の夜間部に通う舩木瑛さん(19)=川崎市宮前区=が力を込める。

 16年春、ミライ塾の「塾生」となり、専門学校に進学した。年間70万円ほどの学費はミライ塾に紹介された市内の高齢者施設での給与を中心に支払う。

 福祉系の高校に通っていたこともあり施設での仕事に抵抗感はなかったが、介護の道に進むことは考えていない。目指すのはホテル業界のプロだ。「東京五輪・パラリンピックに向け、外国人や障害者、高齢者がホテルを利用する機会も増えるはず。『介護のプロ』として働ければ多様な人に応対できると思う」

 現在は週5回、日中7時間ほど施設で就労。担当する入浴介助では1人30分ほど高齢者と向き合って対話する時間があるといい、「奨学生として夢に向かって頑張っているのを知ってくれていて、認知症であっても『今日は学校どうだった』と気遣ってくれる。苦では全くないし、むしろ励みになる」と舩木さん。「ホテル業界は高齢者が温泉に入浴できる施設がまだまだ少ない。入浴介助の経験を生かして利用客の要望に応え、喜んでもらえる従業員になりたい」


 ミライ塾を主宰する奥平幹也さん(43)は沖縄県出身。早稲田大学に進学したが、4人きょうだいで学費を捻出することが困難だったため、新聞奨学生となった。

 新聞配達そのものはそれほど苦ではなかったが、友人や先生などから「新聞奨学生=苦学生」という目で見られるのが不本意だった。新聞配達の仕事は楽しかった。ただ、単に学費のためだけに働くのではなく「仕事を通して、みんなが持っていない強みを身に付けられている」と堂々と発言できる職種であったならば周囲の反応も違うだろうと感じていた。

 卒業後は不動産コンサルティング会社に就職。転機は介護関連の案件を扱ったことだった。高齢化や人手不足など介護業界の実態を知り、新聞やテレビ、街中でも高齢者福祉が気になるようになった。「これからの時代、高齢者を支える仕組みがどれだけあるのか」。考えた末、新聞奨学生だった自分の姿がふと頭に浮かんだ。

 苦学生のレッテルを貼られていた学生時代。もし自分の力で社会の役に立つことができていれば。それに、若い世代が学費を理由に進学を諦めて貧困に陥ることがないようサポートすることは、長い目で見れば年金制度の維持など経済的にも高齢化社会を支えることにもつながるはずだとも思えた。

 「介護業界で奨学生制度を始めよう」

 不動産コンサルティング会社を退社し、12年に介護情報関連の会社を起業。同社事業の一つとしてミライ塾を手掛けている。


ミライ塾のしくみ
ミライ塾のしくみ

 現在は首都圏限定で塾生となる学生を募集し、多くの場合で在学中に完済できる比較的短期の貸し付け型奨学金の形を取っている。

 学生は制度の利用を希望する時期の前年度に申し込み、ミライ塾が紹介する介護事業者と面談の上、実際に就労を体験。この時に意志や適性を確認し、「覚悟がある場合に限り塾生として受け入れている」(奥平さん)。入学前に選考を済ませておくことで、入学金や学費の一部など入学時に必要な数十万円に上る貸し付けが円滑に進められるメリットがある。

 学生は入学後、早朝や夜間など働きやすい時間帯や曜日を選んでアルバイトとして就労。事業者が貸し付けた学費は毎月の給与から天引きして返済する。多い場合は20万円近い月収が得られるため、在学中に返済を終わらせ、貯金もできるという。

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