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時代の正体〈475〉「施設か地域か」の先へ やまゆり園再建問題 【カナロコオピニオン】デジタル編集部兼報道部・成田洋樹

時代の正体 神奈川新聞  2017年05月29日 10:09

やまゆり園入所者家族と職員が出席して開かれた県障害者施策審議会の専門部会=5月17日、県庁
やまゆり園入所者家族と職員が出席して開かれた県障害者施策審議会の専門部会=5月17日、県庁

 【時代の正体取材班=成田 洋樹】大量殺傷事件のあった相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)の再建を巡り、入所者にとって望ましい暮らしの場について論争が続いている。県の有識者会議では、施設より自由度が高いグループホーム(GH)などでの地域生活を入所者本人の意向を踏まえて目指す方向で検討が進められている一方、家族会は同じ場所での大規模施設再建を強く求めている。

 論争の背景には、障害者が地域生活を送る上での支援体制が家族側に十分に示されないまま、有識者会議で議論が進む現状がある。「施設か地域か」といった抽象論の「空中戦」ではなく、入所者約130人一人一人と家族に寄り添いながら、安心して過ごせる「暮らしの場」や支援策を具体的に提案していくことが県をはじめ関係者に求められている。

心情置き去り


 「住めなくなった園を建て替えてほしいと言っているだけなのに、なぜ地域生活移行の話が出てくるのか。施設は悪いものではない」「大規模施設でないと暮らせない重度の知的障害者がいることを分かってほしい」

 家族会が従来の立場を強調したのは、17日に開かれた県障害者施策審議会専門部会の場だった。県の指定管理者としてやまゆり園を運営している「かながわ共同会」の職員も同席し、家族会と歩調を合わせる形で「利用者も家族も以前の生活に戻りたいだけ。事件を機に小規模化を考えないでほしい」と訴えた。

 家族と職員が反発を強めるのには、伏線があった。部会は前回4月27日の会合で「大規模施設を前提としないで検討を進めていく」という方針を打ち出した。家族会が陳述する直前の部会で小規模化の検討について初めて言及したため、反発を招くのは必至だった。

 部会は2月以降7回開かれ、入所者がどのような場所で暮らしたいかを確認する際の手順や組織のメンバーを決めたり、GH運営者を招いて重度障害者を受け入れる際の課題などについて意見交換したりしてきた。地域生活移行に力を入れる入所施設も見学した。

 ある施設関係者の目には、地域生活移行を巡る政策的な議論が進む一方で、事件を受けて心労を重ねている当事者や家族の心情が置き去りにされてきたように映る。「地域生活移行に対する家族の不安や疑念と誰が向き合ってきたのか。当事者一人一人にとって望ましい人生をどこまで真剣に考えているのか。部会だけでなく県や共同会の姿勢が問われている」

根底には差別



 家族はなぜ地域生活移行に警戒感を示し、山あいの場所での大規模施設の再建を望むのか。根底には、やまゆり園に当事者を入所させるまでに地域で受けた偏見や差別経験があると言える。

 今年2月、家族会のある母親が発言したときの光景が忘れられない。県の大規模施設再建構想案について障害者団体などから異論が続出し、構想策定の時期を3月末から夏ごろまでに延期する方針が県から伝えられた説明会の場だった。

 「地域住民の中には『(障害者が)うるさいから、あの家に早く行ってくれ』と警察に通報する人がいた。嫌がらせの電話を自宅にかけてくる人もいた。地域で暮らすのが難しいからやまゆり園にたどり着いたということを理解してほしい」

 地域生活移行に関心を示す家族が発言したときとは異なり、ひときわ大きな拍手が上がった。

 別の家族の父親は同じころ、私の取材にこう言った。「自宅の近くに障害者が安心して過ごせるような職員の質が高い施設やGHがあれば、やまゆり園を同じ場所に再建する必要はない。自宅周辺に施設やGHをつくろうとすれば、きっと反対運動が起きるだろう。だからこそ、あの場所での再建を望むのだ」

 家族の発言からは、障害者が暮らしにくい地域こそ問われていることが分かる。現に横浜市瀬谷区では「知的障害者ホーム建設 絶対反対」という看板が掲げられ、知的障害者のGHが建設断念に追い込まれる事態が起きている。福祉の「受け皿」不足に加え、住民の差別的なまなざしが家族を追い込んでいる実態が浮かび上がる。

 もしこのまま家族会の望み通りに同じ場所に大規模施設を再建することになれば、あの凄惨(せいさん)な事件を受けてもなお、地域社会によって再び、障害者がもともと暮らしていた場所から排除されることにならないか。「障害者なんていなくなればいい」と供述したとされる植松聖被告の考え方に同調するようなことにならないか。私たちはあの事件から何を学び取るべきなのか。

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